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2013年11月28日 (木)

天野祐吉「成長から成熟へ」(集英社新書)

 天野祐吉は今年の10月に亡くなった。1933年生まれと言うからちょうど80歳ということか。

 天野祐吉は博報堂に勤務し、後独立し、「広告批評」という雑誌を立ち上げた(この雑誌は役割を終えたとしてすでに終刊している)。この本は、半生を広告というものに関わって生きてきた彼が、広告を通して戦後から現代までを見てきた備忘録のようなものである。

 広告は物を売るために、ほかの物から区別して優位性を伝えるものとして始まった。差別化の伝達である。人々が何か欲しい物があるときに広告の情報を元に選ぶことが期待されていると言っていい。
 
 しかしすでに人々は何かをあまり求めなくなって久しい。家には何でもあふれるほど物があるから欲しいものがあまりなくなってしまった。そこで広告は欲望をかき立てるための手段となる。すでに持っている物を陳腐化して新しい物をほしがるように仕向け、古いものを捨てさせようとする。

 現代はさらにそれすら過去のことになり、物ではなく、こと、が広告される。すでに物があふれているのであふれないもの、旅や情報などが取り上げられる。ゲームの機械ではなく、ゲームが、つまりソフトが売り買いされ、それがさかんに広告される。本が書籍という紙の媒体ではなく、デジタルブックで内容だけが売買され、それがコマーシャルされる。

 これは私のつたないイメージであって、この本にははるかに深い思索と知識に裏打ちされた天野祐吉の考えた広告のくわしい変遷が、多くの具体的な広告の例を挙げて語られている。

 いままでこんな窓から世界を見たことがない。

 天野祐吉は語り口も穏やかで分かりやすいが、文章も平易でそのいわんとするところが理解しやすい。彼のようなクールでありながら説得力のある論客を失ったことは日本にとって大きな損失だったと、大げさではなく感じている。

 読みやすい本で、あまり出会うことのないような内容の本だと思う。試しに読んでみたら案外面白く読めると思うのでお薦めしたい。意外な発見があるだろう。

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