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2013年11月27日 (水)

沢木耕太郎「流星ひとつ」(新潮社)

 今年八月、藤圭子が飛び降り自殺した。若い人にとっては宇多田ヒカルの母親としての認知度のほうが高いかも知れない。

 この本は藤圭子が28歳のときに突然歌手を引退すると発表し、そのさなかに沢木耕太郎がホテルのバーで長時間のインタヴューをした会話を文章にしたものである。

 なぜ今頃それを出版するのか。その理由は巻末の後書きに書かれている。

 この本は前編全て会話のみで綴られていて一切地の文のないという特異な形式で書かれている。だから藤圭子の外観については一切記述がない。顔色も表情も衣装の記述もないし、沢木耕太郎の質問に答えたときのリアクションも会話から推測することしか出来ない。

 沢木耕太郎はノンフィクション作家として脚光を浴び始めた頃で、当時いろいろな手法での表現を試みていたという。この本もそのようにして執筆された。そして書き上げたあと出版するかどうか迷いに迷った末にただ一冊のみを製本して藤圭子に送呈したのだという。いつか出版する日もあろうかと思いながらコピーを一部だけ手元に残し、そのままになっていたという。

 藤圭子が自死したあとに、宇多田ヒカルがマスコミにコメントを寄せた文章がある。この本の後書きにそのまま収録されている。ここには藤圭子が精神の病に苦しみ続けていたことが明かされている。宇多田ヒカルにとっての藤圭子はこのインタヴューで明かされている輝くような個性と魅力にあふれた藤圭子とはまるで違う。

 だからこの本をあえていま出版したのは宇多田ヒカルへの、彼女の知らない母の真実を伝えるメッセージであり、同時に多くの藤圭子ファンに対するメッセージなのだ。彼女がなぜ歌手を突然引退したのか、真実はもちろん分からないが、この本で語られている言葉に虚構があるとは思えない。ひとりの人間が生きて、そして死んだ。その人生の輝きの記憶がこのような形で残されたことは彼女への鎮魂になると信じる。

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