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2017年8月 3日 (木)

ドラマ『學』

 WOWOW開局20周年を記念して、2012年の正月に放映されたドラマである。脚本は倉本聰。彼がむかし構想したドラマだが、製作が実現するとは思っていなかったらしい。それは主な舞台となるカナダロッキー山脈の山麓の中のロケがどれほど苛酷なものだったのか、映像を見れば分かる。主演は風間學という名の少年役の高杉真宙、そして祖父風間真一役の仲代達矢。ドラマの出来は素晴らしく、名作映画として劇場で上映する値打ちがある。

 ゲームに夢中の少年・學は、近所の小さな女の子が自分の部屋に入りこみ、ゲームをむちゃくちゃにし、保存データも失わせてしまったことにかっとなって衝動的に女の子を突き飛ばしてしまう。女の子は頭の打ち所が悪く死んでしまい、困った學は遺体をトランクに詰めて廃棄する。

 当然事件は発覚し、間もなく學は犯人として補導される。マスコミは(いつものことだが)狂気の集団となって學の両親を攻め立て、それにいたたまれずに學の両親は自殺してしまう。學はそのとき13歳、少年法により彼は拘束されない。學を引き取ったのは祖父の真一だった。

 年寄り夫婦で山暮らしをしていた真一は學を何とか立ち直らせようとするが、學はまったく口をきかず、スマホを手にして画面に見入っているか、イヤホンで音楽を聴いているのみである。真一は南極の越冬隊に参加したこともあり、冒険でサバイバルを体験している山男である。一年間かけて、信州の山に繰り返し學にサバイバルの方法を伝えようとするが、學は上の空である。

 そして一年が経過し、學は14歳になっていた。真一は學を伴ってカナディアンロッキーの山麓に住む親友の元を尋ねる。そしてそこからヘリコプターでさらに奥地に送ってもらい、一週間の山ごもりをする予定である。

 実はドラマはここから始まる。そこまでの経過は回想シーンで断片的に語られるのである。どうして學が誰とも打ち解けず、口さえきかないのか、次第にわかってきてドラマが本格的に始まるのである。祖父の真一にはある目的と覚悟があった。それは信じ難いものであった。

 ここから始まるサバイバルは想像を絶するもので、厳しい自然の中で孤立無援であることがどれほど苛酷なものであるかがこれでもか、と描かれていく。生きるのに必死になればスマホも何もあったものではないのである。

 何が起こるのか語るのはこれからドラマを観る可能性がある人に申し訳ないのでやめておく。これは少年・學の再生の物語である。再生とは文字通り、一度死ぬ思いをしてそれを乗り越えてこそ達成できることであることをこれほど明快に示したドラマはないだろう。リセットでは人は再生できないのである。生き返るには死ななければならないのである。

 思い出すのは、『北の国から』(もちろん倉本聰脚本である)で、頑固老人(大友柳太郎・このドラマでも役柄として死ぬが、そのあと間もなくして本当に亡くなってしまった)の孫が、四六時中携帯を見続けているというシーンだ。そのときにはその孫に背筋が寒くなるような異常さを感じたのだが、いまそれは周りを見まわせばそこら中に見ることが出来る。バーチャルにのめり込むことで生き物としての生命力を失いつつある人たちに対する倉本聰の警告がこのドラマのテーマだろうか。

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