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2019年8月21日 (水)

井波律子『トリックスター群像』(筑摩書房)

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著者のいうトリックスターとはどんな存在か。

 

序章に云う。

 

「トリックスターとは道化者、悪戯者、ペテン師、詐欺師等々の要素を合わせもち、ときには老獪かつ狡猾なトリックを駆使して、規制の秩序に揺さぶりをかけ攪乱する存在を指す。ヒーローではなくアンチヒーロー、正統派ではなく反正統派こそがトリックスターなのだ」

 

 序章でまず中国の神話の蚩尤(しゆう)が語られる。蚩尤は中国最古の皇帝とされる黄帝と戦って敗れた。言い伝えでは蚩尤の鬢の毛は剣や戟のようであり、頭には角があり、四つ目で手は六本あった。蚩尤が黄帝に殺害されたあと刑天が黄帝と争った。刑天も黄帝に首を切り取られて常羊山に葬られたが、首のない刑天は乳を目にし、臍を口として干(たて)と戚(まさかり)を操って戦い続けた。その他神話の中に登場するトリックスターを皮切りに、本論として物語りに描かれた、著者が考えるトリックスターたちを紹介していく。

 

 選ばれた物語は中国を代表する『三国志演義』、『西遊記』、『水滸伝』、『金瓶梅』、『紅楼夢』の五編。この本を書くときに『西遊期』の原文(各種あり)を渉猟して翻訳したばかりであったからもちろんだが、この本を書くためにこの長大な物語すべてを中国語で読んだと云うから凄い。

 

 この本を読むことでそれぞれの話のあらすじと読みどころ、その面白さ、書かれた時代背景が見えるようになっている。そうしてすべてを読み終わると中国文学とはなにかがほのかに見えるようになるというおまけもついている。この中の『金瓶梅』と『紅楼夢』は翻訳ですら読んだことがない。もともと読む気がないから今回の著者の説明で私には十分であった。

 

 参考文献にあげられている個別の物語の翻訳については私も斜め読みしているし書棚に並んでいる。今度は井波律子先生に教えられた視点を参考に、ちゃんと読みたいと心から思った次第である。いつになるか分からないけれど。

 

 後先になったが、たとえば『西遊記』では前半部の孫悟空が天界を暴れ回る部分はもちろん孫悟空がトリックスターであり、後半の取経の旅では猪八戒がトリックスターであるとしている。『水滸伝』では黒旋風李逵がトリックスターとして扱われている。それらのトリックスターに着目することで、相対的に『三国志演義』の劉備玄徳、『西遊記』の三蔵法師、『水滸伝』の宋江の不思議な存在の役割がかすかに分かるという仕組みになっている。

 

 これは私にとって長年の疑問の一部解明につながった気がしている。納得や理解は出来なくても存在意味が少し分かったと云うことだ。

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コメント

こんにちは
先日は私の駄文を見ていただきありがとうございます。
『金瓶梅』は岩波文庫で、そして『紅楼夢』は子供向きの世界文学全集でそれぞれ読んだことがあります。中国人がエロ文化をどう形成して、そして堪能したかを知るには、特に『金瓶梅』はうってつけでしょう。しかしネットで『金瓶梅』と検索したところ風俗店ばかりで閉口した記憶があります。日本人も中国最強のポルノ小説だった『金瓶梅』をそう認識しているのでしょう・・・。
では、
shinzei拝

shinzei様
井波律子女史の解説を読んでいると、『水滸伝』から派生して『水滸伝』の極北の『金瓶梅』という風俗小説に仕立て上げた中国の文化の最盛期を感じさせますし、『紅楼夢』はその洗練の極地を感じさせます。
それに比べて中国の現代文学はどうなのでしょうか。
残念ながら数作しか読んでいないので比較することが出来ません。

おはようございます
最近私の本読み仲間の間では『三体』というSF小説が話題になっています。
私も友人から借りて読んでみましたが。元々SF小説はあまり好きではないので「こんなものか」と思いました。原書も読もうと思いましたが、神保町の中国書籍を扱う店に尋ねても相当購入に時間がかかる。とのことでした。私は外国の小説は、読めるのなら(英・中・韓に限りますが)原書に当たるのを原則としていますから原書が欲しいところです。
では、
shinzei拝

shinzei様
『三体』という小説は残念ながら存じません。
中国にもSF小説があるのですね。
現実の中国は『1984年』というオーウェルのSFは小説を地でいくような社会ですから、現実がSFの世界かのようです。
最初『三言』という馮夢龍が編纂した白話の短編集のことかと勘違いしましたが、こちらはいわば中国の『今昔物語集』みたいなものですからSFではありません。
新しい小説なのですね。

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