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2019年8月11日 (日)

佐藤春夫『退屈読本 上』(富山房百科文庫)

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 若いときに『退屈文庫 下』を購入して読んでいる。初版が昭和53年、買ったのは第二刷で昭和58年のものだ。探したけれど本屋には下巻しかなくて、上巻をいつか見つけてあとで読もうと思っていてそのままになっていた。

 

 今回は永井荷風の評論に関連して佐藤春夫の本を読みたくなり、この『退屈読本』を読み直すことにして上巻を取り寄せた。むかしと違って簡単に、しかもすぐ手に入るのは大変ありがたい。新刊を購入したので、こちらは2010年の第八刷である。巻頭に解題として丸谷才一が文章を寄せている。文体もテーマもさまざまで、しかも長短の著しく異なる文章が収められている(もともと一冊の単行本として出版されたもので、合わせて102編、上巻だけだと46編)が、それは一件無造作に、そしてランダムに列べられているようで、実はその配列には佐藤春夫が工夫を凝らしているのだという。

 

 ここに収められているのはすべて大正時代に書かれて発表されたものばかり、小説以外の文章がほとんど網羅されているという。佐藤春夫は1892年生まれで1964年に死去している。大正時代(1912-1926)と云えば彼がまだ若かったころのことだ。読んでいくに従い、佐藤春夫という作家の美意識、性格、文才などが見えてくる。

 

 私には評論を語るほどの能力などないから、ただ感じたままを云えば、彼は感性鋭敏に思ったままを文章にする。批評した相手に対する斟酌はあまりしない。良いと思ったものは良いと好い、気に入らないところはずばりと指摘する。それが自分の勘違いであれば素直に謝る。きびしい批評に悪意はないのである。悪意はないが斟酌のない言葉は時に相手を傷つける。恨みに思うひともあるだろう。それを積極的に修復しようとする気持は佐藤春夫にはない。あまり文壇で徒党を組んだりするタイプではなかったようだ。

 

 一度こじれた仲を修復しないから互いにわだかまりが昂じてしまう。この『退屈読本』の中にいくつもの評論があるが、ひとによっては恨みをもつものもあるだろうと想像する。それがなにかを考えてみた。本質的に他人をリスペクトするということのあまりない人なのかも知れないと感じた。同じ厳しい言葉にも、相手に対する敬意が根底にあれば、受け入れられることも多いものだ。

 

 佐藤春夫自身はどんなに厳しく批評されても是々非々でびくともしないひとだと思われる。悪いと指摘されても納得できればなるほどありがとうと云い、褒められれば素直に喜ぶのではないか。

 

 私にとって、この『退屈読本』はいまだから読める本であるようだ。下巻だけ読んだときには、いったいなにを読んでいたのか、まったく記憶にない。意味などわからずに字面を追っていただけだったのだろう。この本を読んで、ようやく彼の『小説永井荷風伝 他三篇』を読み通すことが出来た。永井荷風を論ずる佐藤春夫を通して永井荷風像の一面を知り、それをもって佐藤春夫という作家の一面を知った気がする。その本のことは近々ブログに書くつもりだ。

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