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2011年7月10日 (日)

宮沢賢治「どんぐりと山猫」について

別役実の「イーハトーボ行きの軽便鉄道」という本で劇作家の別役実が宮沢賢治の小話をひとつづつとりあげて、その世界観を別役流に解釈している。本全体を読んで感想を書くよりも取り上げられた話、ひとつずつについて別役流も参考にしつつ、感じたことを書きながら考えてみたい。
ある土曜日、一郎のところに不思議なはがきが届く。明日の日曜に面倒な裁判があるので来てほしい、という山猫からの要請である。一郎は喜んで行くことにする。山をどんどんどんどん行く。ついにここだと思うところで山猫の馬車別当(別当の意味には馬丁という意味があるので多分御者のようなものだろう)だと名乗るものに出会う。風体から山羊であろうかと思う。この馬車別当が山猫の代わりにはがきを書いたようであり、そのはがきの評価を気にする。本当は稚拙な文面だったが、一郎が「なかなか文章がうまかった」というと馬車別当は胸を張る。そこへ山猫が登場する。山猫は一郎に挨拶したあと早速裁判を始めたい、という。裁判とはどんぐりの誰が偉いか、と言うものだった。互いに自分が大きいことや丸いこと、頭がとがっていることなどを偉いことの根拠として主張し合って収拾がつかない。三日もこれで争っているという。ここで一郎の判断が表明され、どんぐりの騒ぎは一挙に収束する。山猫は一郎の機知に感心したように、また来てほしい、という。快諾したのだが、山猫の招待の文言の提案について、一郎が、「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方が良いでしょう。」という。そしてたくさんのどんぐりをお土産に家まで送られるのだが、それから後、二度と招待のはがきが来ることはなかった。一郎は山猫の文言を否定しなければよかったと思う。ということで終わり。
別役実は「来なかったはがきの謎」ということで、馬車別当の書いたはがきについての山猫のこだわりと、それを肯定した一郎、そして山猫を否定した一郎について注目する。また、機知で裁判を納めた一郎について山猫が疑問を持ったと考える。山猫の提案とは「用事これありに付き、明日出頭すべしというはがきの文言にしたい」というものである。
多分山猫は最初のはがきもそのような文言にしたかった。しかし馬車別当に押し切られて稚拙な招待状になったことを不満に思っている。ところが一郎は馬車別当に気を遣ってその文言で良しとした。一郎は馬車別当の稚拙な招待状だからこそわくわくして出かけたのかもしれない。だから山猫の提案を否定したのだ。
山猫は社会のシステムを維持する大人の世界の住人なのではないか。その世界で解決つかないことを一郎に頼んで見事に解決したけれど、それは大人の世界の解決法ではなく、普遍性も持ち得ないものだと山猫は考えたのかもしれない。そして大人としての挨拶に基づく招待の提案に対する一郎の返事を聞いてやはり住む世界が違うのだということに山猫も気がついたのだろう。馬車別当は二つの世界をつなぐ存在だが、山猫にとっては使用人に過ぎない格下の存在なのだろう。一郎もそのことに気がついたのだと思う。一郎にとって山猫も馬車別当もどんぐりたちも自分の側の世界だと思っていたが、やはり彼らは別世界の存在だったのだ。短い話だが、別役実の読み方を参考にするだけでずいぶん考えを深めることが出来て楽しかった。いくつも取り上げられているのでこれからもぼちぼち楽しんでみたい。

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