北林一光著「サイレント・ブラッド」(角川文庫)
失踪した父の車が長野県の大町市で見つかる。その発見現場に赴いた息子は父の消息を求める中でいろいろな人に出会う。山岳地帯、黒部へ至る渓流の麓の地と父とは何の関係があるのか。そして自分もそして母も実は父の過去について何も知らなかったことが分かる。
父、そしてさらにその父である祖父からの因縁がその山の奥に眠っていた。
ほどほどであきらめようとする主人公を踏みとどまらせたのは地元で知り合った女性であった。そうしてついにさらに山深く踏み込む羽目になったとき、そこで出会うのは人智を越えた存在だった。
過去が暴かれ、そしてそれが浄化されたとき、山はつかの間優しい顔を見せる。
あたりまえの学生だった主人公が様々な試練を経験して男になるドラマでもある。こちらも一緒に男になったような気がして力が入る。
良い小説だった。この本と「ファントム・ピークス」の二冊を残して早世した著者の冥福を祈る。この著者の本はもう読めないのだ。
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