解体
生まれ育った家を解体した。
私が幼稚園に上がる頃両親が購入した、借地に建つ中古の住宅だ。平屋だが半間幅の廊下が南側と西側を囲む造りのしっかりした家だった。庭には二本の甘柿の木と大きな桃の木、裏手にはびわの木やイチジクの木、栴檀やキンモクセイの木がぐるりと植わっていた。ほかには青木やグミの木、ザクロの木などがあり、生け垣に槇の木が植えられていた。両親は終の棲家にするつもりもあって、ある程度蓄えができてから地主に土地の購入を申し入れたが、ばら売りを嫌ったのか売ってもらうことはできなかった。
子供たちも大きくなったので家を二階屋に改築した。台所や風呂もリフォームされた。兄弟三人はここから巣立っていった。
両親はやはり終の棲家は自分の土地の上に立つ家が欲しいと考えたようで、退職金やそれまでの蓄えで新しい町の新興住宅地に建つ家を購入して移り住むことになった。今そこに弟の家族と同居し、父は5月に97歳で自分の土地と自分の家の畳の上(入院することなく自宅)で満足して死んだ。
元住んでいた家は縁があって借り手があり、借家として両親の収入になっていた。そうして最後の借り手が、父の死後しばらくして亡くなった。一人暮らしの老婦人だった。その家も老朽化し、建て直しに近い改築が必要であった。
次の借り手の当ても無いので、母と弟と相談して更地にして地主に返却することにした。解体工事の前に三人で見に行った。そして解体した後も見た。
母は言葉を失っていた。というより思うことが多すぎて言葉にできなかったのかもしれない。私も自分の根っこがちぎれてしまったような気がした。
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