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2011年9月 3日 (土)

江國滋著「落語美学」(旺文社文庫)

1982年発行の本。古い考え方だと云われるだろうが、芸能界というのはいわゆるカタギの世界ではない、水商売もカタギの世界ではないとおもっている。そうしてカタギの人間がその世界に移るときには河をひとつ飛び越えなければならないし、飛び越えた後に、カタギに戻ることはむつかしい世界だと考えている。別にカタギではないと云うからと行ってやくざなどの棲むアンダーグラウンドの世界だと云っているわけではない。ただ、今頃そう考えている人間はほとんどいないかもしれない。落語について語った本はたくさんある。江國滋のこの本がその中でどう違うのか。解説の色川武大が指摘しているように、今までの落語について書かれた本は落語の世界の中から落語を語っている。好事家には受けても一般の人には今ひとつ共感がえられていない。しかし江國滋はカタギの人であり、落語界の外側、時にはひとつ次元の高い上側からの視点も同時に持っている。普通のカタギの落語好きの人にこそ共感が得られる文章なのだ。
江國滋は落語3部作(落語手帖、落語美学、落語無学)を書いた後、いくつか落語に関するエッセイを書いたものの、落語についてはそのあとまとめて書くことをしなかった。もちろん評論的なものも含めてエッセイは書き続けたのでずいぶん楽しむことが出来たが。
彼はこの3部作で落語評論家と呼ばれるようになったことをいやがっていたという。彼はあくまでカタギとして落語界を外側から楽しむスタンスを崩さなかったのだろう。
落語が、特に昭和30年代から40年代の落語に思いのある人なら是非読むべし。

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