小松左京著「日本文化の死角」(講談社現代新書)
小松左京は巨人である。広いジャンルに渡る該博な知識を持ち、膨大な著作を残して今年7月に80歳で死んだ。交友した人がすごい。星新一、筒井康隆はもちろんだが、高橋和巳、三島由紀夫、開高健、桂米朝、梅棹忠夫、手塚治虫、松本零士、大島渚など多方面にわたる。
死去に伴い短編をいくつか読んだ。それとは別に以前飛ばし読みしてしまったこの本を今回あらためて読み直してみた。
日本の文化のルーツを、博覧強記の彼があらゆる方面からの照明に照らし出して語っていく。
現代は知識が深化しすぎたために専門家は立ち位置を変えてものを論ずることが出来なくなっている。複数の立ち位置に立った物言いをする人は俯瞰的だが、見方が浅すぎて世界の意味の解釈に届かない。
その背反することを行えたのが小松左京だ。この本でまだ三内丸山遺跡が発掘される前なのに、縄文時代を弥生時代の前の時代、という見方ではない見方を示している。稲作の渡来、宗教の伝播、中国文化から受け入れたもの、受け入れなかったもの、日本語の成立など、を個別に論じながら今までの比較文化論では照明の陰になっていたところを照らしていく。最後には世界の文化の摩擦と交流を論じ、あるべき世界についての希望的私見で締めくくっている。
古い本だが(昭和52年初版)大阪万博のサブプロデューサーでもあった小松左京の思考の原点が伺える中身の濃い一冊である。
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