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2011年9月 5日 (月)

清水義範著「迷宮」(集英社文庫)

不思議な小説である。もちろん清水義範の書くミステリーだから誰も試みたことのないような実験的なものになるが、それでいて一級のミステリーになっている。同じ猟奇的殺人事件が繰り返し語られる。新聞記事、週刊誌の記事、事件の調書、事件を追跡した小説家の文章などからその細部の違いがあぶり出され、その振れ幅の中に、ある事実が浮かび上がる。
物語は「私」という正体不明の記憶喪失した人物に対して、この事件の情報が提供されていく、という形をとっている。「私」は犯人なのか。
犯人の名は最初から分かっている。動機についても一通りの解釈がされているが、説明が繰り返されるうちに真実がすり抜けていく。
言葉というものの限界が見えてくるのだ。それがいくつかの作者の意図したことのひとつかもしれない。読み方でもっと違う意味が見えてくるような気もする。
巻末の解説には是非もう一度読み直すように、とのアドバイスがあったが、今のところそこまで余裕がない。

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