譚璐美(たんろみ)著「阿片の中国史」(新潮新書)
著者は中国人の父親と日本人の母の間に生まれ、中学まで日本で学んだ。中国籍。広東省の国立中山大学の講師を経て現在独立し、ノンフィクション作家。1950年生まれの彼女は私と同年である。
列強による中国侵略はアヘン戦争から始まった。そもそもアヘン戦争とは何か。なぜ阿片があれほど中国に蔓延していたのか。そしてなぜ日本は阿片の禍から免れることが出来たのか。
大学に入って真っ先に、私はなぜ日本が日中戦争、そして太平洋戦争に突き進んでしまったのかを知りたいと思い、右側(戦記物)、左側(戦争犯罪告発ものなど)、アメリカ側などの本も読んだ。そうしてそれ以前の歴史を知らないとその背景が分からないことに気がついた。明治維新の前後、そして日清日露戦争について眺めているうちに、なぜ中国はあれほどの大国でありながら遠路はるばる(当時はスエズ運河もパナマ運河もないから、喜望峰を回りインドや東南アジアを経由して中国に来たのだ)わずかな兵力でやってきたヨーロッパの国々にいとも簡単に蹂躙されたのか考えざるを得なかった。そうして中国そのものに興味が傾き、ついに中国の古代史までさかのぼってしまった(中国は古いほどおもしろい)。
だからアヘン戦争前後は私の歴史に対する興味の原点でもある。
この本は新書という量的制約の中で、やさしくわかりやすく、かつまた偏向することなく阿片と中国について書かれている。
阿片と中国という視点から中国の近代史が理解できる良書である。
日本の歴史教育は近現代史をきわめて表面的にしか教えない。ほとんど何も教えていないと言って良い。歴史を教える、ということは事実を羅列して記憶させることでは決してない。歴史について考える仕方を身につけることであると思う。
現代史を善悪で論じるような歴史学者が多いから、学校の歴史の先生は批判を恐れて現代史を避けて通り、日本の若者は近現代史に無知のまま大人になる。そして外国からその歴史観を糾弾されると自分で語る言葉を持たないので萎縮して言いなりになってしまうのだ。
心ある若者は自発的に自分で歴史を学ぶはずでその材料は日本では自由に手に入る。この本はその一助になるはずである。
若者よ、そして心あるひとよ、歴史に親しもう。
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