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2011年11月 4日 (金)

宮本輝著「三十光年の星たち 上・下」(毎日新聞社)

昨日読み始めて今朝読了した。感動した。
宮本輝は「泥の川」での出会い以来ほとんどの著作を読んだ。ただ「流転の海」のシリーズだけは何となく肌合いが合わず読んでいないが、いつか読むだろう。つぎに「骸骨ビルの庭」を読む予定である。
この本の主人公・仁志は小心な教員の次男坊に産まれ、できの良い兄と弟に挟まれて育った。中学生の時に母を癌で失い、再婚した父に反発して父と諍い、ついに勘当される。家を出ていろいろな職に就きながら日の目を見ず、ある女性と始めた革製品の製造販売の店も頓挫して女性に逃げられ、借金だけが残される。その借金の一部を父に頭を下げて助けてもらい、残りを近所の金貸しの老人に借りて急場をしのぐ。
その金貸しの老人への返済も滞り、進退きわまってその老人に今できることを全てさらけ出して猶予を乞う。
物語はそこから始まる。
30歳の彼に対し、老人は返済の代わりに借金の取り立ての同行の運転手をするよう求める。老人には計画があった。
いろいろな人との出会いがあり、その人生が明らかにされる。主人公にも回り道をした生き方をした分、いろいろな人脈の財産があったことが自覚されていく。
これは大人向けのお伽噺と言って良い。現実の世界はもっと嫌なものだ。だがこの物語の中で語られている人生の生き方こそが実は「生きる」ことなのだ。このような真っ当な生き方をせせら笑うような生き方は本物の生き方ではない。そのことが淡々と語られる中に胸の奥のほうから熱いものが湧いてくる。ひとは一生懸命生きることで真実の人生を生きる。
この本はそのあたりまえのことが激しい喜びとともに実感できる本だ。

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