映画「男はつらいよ」
1969年松竹映画。監督・山田洋次、出演・渥美清、倍賞千恵子、光本幸子、笠智衆、森川信、三崎千恵子、前田吟、志村喬、佐藤蛾次郎、太宰久雄、関敬六、津坂匡章他。
寅さんシリーズの記念すべき第一作。主要レギュラーがほとんど登場する。おいちゃん役の森川信は最もはまり役で「馬鹿だねえ」というセリフはこの人が言うのが一番ふさわしい。第八作まで出演して病没してしまったのが惜しまれる。
この映画は何遍も見た。寅次郎がまだ生活破綻者として、世の中の理屈を無視しているという設定であり、だからこそさくらのお見合いをめちゃくちゃにするシーンが生きてくる。さくらのおろおろと困り果てる姿が、いじらしく見えるのだ。
多くのひとがこの映画を見ているだろうが、私が特に印象に残っていて好きなのは、さくらと博の結婚式で、博を義絶した大学教授の父親が挨拶するシーンだ。父親役の志村喬がスピーチを語り出そうとしながら想いが余ってなかなか話し出せないシーンはいつの間にか息をのませるところだ。訥々と語り出す言葉は真情にあふれており、父親の気持ちを思うといつも涙が出てしまう。
その前の博の言葉と父親の言葉で、何があったのかは詳しく分からないものの見当はつき、それぞれがその後の8年間にどのような思いでいたのか、想像させずにはおかない。
冒頭、寅次郎が矢切の渡しを渡り、江戸川の土手を歩いているとき、細いネクタイを締め、コンビの革靴を履いているのが珍しい。さすがに(なんと)二十年もの不義理をした後なので神妙な姿に整えたのだろう。とらやに居着いてからはいつもの雪駄に腹巻きの姿である。
この映画は何度見ても良い。
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