野矢茂樹著「哲学の謎」(講談社現代新書)
対話形式で、哲学の根源的な問題を語る。あげられている主なものに、意識とは、実在とは、記憶とは、時の流れとは、体験とは、意味とは、意志とは、自由とは、など。これらの難問に実に分かりやすい考え方のガイドをしてくれている。分かり易すぎてすらすら読めてしまい、ただ読んだだけになるおそれがある。
特に私も昔考えたことがあるが「時の流れとは何か」、という所は興味深い。時が流れるものだとして、では時が止まったとしたら誰がそれに気がつくのだろう。宇宙の全てが止まって、そしてまた動き出したとして誰がそれを知るのだろう。それを外側から見る超越者でもいない限りそれは認識できない。認識できないものはあると言えるのか。
この本を読むとつくづく哲学は言葉なのだ、と思う。そして言葉というものはかなり曖昧で、しかも不備なもののようだ。その言葉で人はものを考えるしかない。そして他人とその考えたことを理解し合うことはさらに困難なことでもある。自分と他人は違う、ということを本当に認識することが出発点だと思う。「話せば分かる」という言葉が自分と他人は同じ人間だから、自分が思ったことを言葉で語れば相手は必ず分かってくれる、というのは私は間違いだと思っている。先ず他人は自分と違う、という深い認識があった上で、この不備な言葉を何とか使いこなして思いを伝えようとすることでしか他人とコミュニケーションできないと知っているひとだけが「話せば分かる」という資格があるのだ。
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