映画「男はつらいよ 寅次郎紙風船」
1981年松竹。寅さんシリーズの28作目。監督・山田洋次、出演・渥美清、倍賞知恵子、音無美紀子、岸本加世子、小沢昭一他。
久しぶりに柴又に帰ってきた寅次郎に小学校の同窓会の招待状が来ている。いつもは旅先なので出席していなかったが、ちょうど良いので出かけていく。寅次郎が同窓会に来る前に同窓生がお互いの久闊を叙している。たまたま寅次郎の話になるが「どうせテキ屋商売の旅先だから来ないだろう」「そういえばあいつにはいじめられた」「あいつが来るなら俺は参加なんかしない」などと散々だが、突然の登場にみな言葉を失う。だが寅次郎はそんな空気を察するべくもない。
帰る頃になっても戻らない寅次郎をとらやの面々は心配するが、そこへ同級生のひとり、クリーニング屋の保夫(なつかしき東八郎)を連れてべろべろに酔った寅次郎が帰ってくる。もっと飲もうという寅次郎に対し、保夫が「明日の仕事があるから俺は帰る」という。寅次郎は「そんなちっぽけなクリーニング屋なんかつぶれちまえ、世間の誰も困らない」と暴言を吐く。これにはさすがにさくらを始めとらやの面々は寅次郎をしかり飛ばし、保夫に平謝りする。気の弱い保夫は、同級生たちが寅次郎を敬遠してみな逃げたのに、ひとりで寅次郎につきあわされていたのだが、怒りとともに「大きなチェーン店に客を取られて店をたたもうと何度思ったかしれない。でも家族が頑張ろうといってくれている。おまえの洗うシーツでなければ嫌だ、おまえのワイシャツのクリーニングが良い、という得意先があるんだ。おまえみたいなやくざな商売をしている人間には絶対にこの気持ちが分かるか」と痛烈な言葉を吐いて去っていく。
酩酊している寅次郎にしてもこんな心ないことを言うのはめずらしい。しかしとらやの人々は「よほど同窓会で嫌なことがあったのだ」と悟る。それを酔った勢いで保夫にぶつけたのだ。案の定翌朝みなが起き出す前に寅次郎は再び旅立ってしまう、というところから映画のメインストーリーが始まる。
その旅先で拾った家出娘が岸本加世子、また商売先でテキ屋仲間(小沢昭一)の女房(音無美紀子)から声をかけられ、その仲間が病床にあることを知る。わざわざ見舞いに出かけた先で、その仲間・倉富から「自分に万一のことがあったら女房を貰って面倒を見てくれ」と頼まれる。さらに帰りがけにその女房から倉富が余命幾ばくもないことを知らされる。倉富の死を知ったのはそれからしばらく後の旅先であった。
思うところがあって連れてあるいていた家出娘を振り切り、寅次郎は柴又へ帰る。カタギになる、という言葉にみなはまた何かあったのだろうと想像する。倉富の女房・光枝が東京へ出てきて旅館の仲居として働き出した。舞い上がる寅次郎。しかし彼女から「亭主が私のことを寅さんに面倒を見て貰うように頼んである、と聞いているけど本当?」と聞かれると「病人のいうことだからまあ、分かった、といっておいただけだ」と答える。光枝はその顔をじっと見て「ああ良かった。本気にしてないなら安心だわ」と寂しそうにつぶやく。
そうして今回はお互いうまくいきそうだ、と見ていた柴又の人達をおいて寅次郎は再び旅に出る。
光枝がとらやにやってきたとき、てきぱきと接客をこなす様子がとても良い。とらやの人達も好印象を持つ。どうしてテキ屋の女房などになったのか、さくらたちに語り始めるとき、煙草を取り出し、一服点けるのを見て、さくらが一瞬「あっ」という表情を見せるところが特に良い。あの煙草のシーンは秀逸だと思う。
今WOWWOWで寅さんシリーズ全作を放送している。コレクションをしようとしているが、たまたまこの28作をダビングし損ねた。頭の部分だけ見逃して放送そのものを見た。この作品は映画館でリアルタイムで見ていて好きなものの一つだ。
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