石光勝著「テレビ局削減論」(新潮新書)
テレビがおもしろくない。これは大方の人の実感だろう。テレビを見る人が減りだし、視聴率が低下している。そしてテレビ局はこの二三年赤字に陥りだした。これがすべて関係していることは誰でも少し考えれば分かることだろう。
インターネットや携帯のワンセグは視聴率にカウントされない。また録画されたものもカウントされない。このような事情もある。テレビ局が赤字なのも景気が悪いから企業のCM費削減が影響しているだ、というのもあるだろう。ではなぜテレビはおもしろくないのか。当然金をかけられなくなったから食い物の話やお笑いタレントを集めたトーク番組やクイズ番組を主体にせざるを得ない。いつも同じ顔ぶれが楽屋話の暴露し合いで観客そっちのけでお互い通しで笑い合っている。楽屋落ちの話はたまに聞くからおもしろいので、四六時中繰り返されるとまともな人ならうんざりする。
だからテレビ局を削減すべきだ、というような短絡的な本ではこの本はない。200頁ちょっとのこの本は実にテレビ業界、いやメディアについて詳細に論じた労作である。
日本のテレビの民放キー局は5社、それはすべて新聞社と強く連携している。日本テレビは読売新聞、TBSは毎日新聞、フジテレビは産経新聞、テレビ朝日は朝日新聞、テレビ東京は日本経済新聞であることは周知のことである。すべてのキー局が新聞社と関連しているというのは世界的にはあまり例がない。これはテレビ局をキー局とその傘下の地方局に編成するときに、当時の郵政大臣だった若き田中角栄が作り上げたものだった。当初とは若干系列が変更しているが現在も構造は全く変わっていない。これがメディアとしていささか問題があることについてこの本は言及している。
またテレビ局のやらせ問題の本質とは何かも論じている。ドラマもドキュメンタリーも、今ではバラエティーも番組の多くがテレビ局独自に作られているものはわずかであり、下請け、いやほとんどが孫請けの制作会社の作ったものである。そしてテレビ局の職員の給料は入社して3年もすれば600万円以上なのに孫請けの制作会社の社員は半分以下である。一本の番組の費用も、多くをテレビ局と中間の手配会社に中抜きされて半分以下、ひどいときは三分の一、四分の一になる。これでちゃんとした番組を作れという方が無理なのだ。手抜きがでるのも当然なのだ。ついには安いからという理由で韓国ドラマに頼る始末である。しかし韓国ドラマには安くてもすばらしいものがいくつかある。
その他多くの問題と現代のインターネットが普及した状況との関係が詳細に解析され、結果としてキー局を現在の5局から3局に減らすべきであると提言している。アメリカや韓国、ヨーロッパなど、他国と比べても日本の5局は多いそうだ。
今のように経営を維持するためにCMを大量に流し、なおかつ番組のつなぎの部分をCMの前のところを繰り返すことで番組全体をますます薄く短くしていく手法はすでに限界を超えている。私は有料局を充実してくれればそれとNHK(これも有料か)でいいとすら思っているが、この本は少なくともこのくらいしないとならないという、テレビ局内部からの真摯な提案であると感じた。
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