高田明和著「『病は気から』の科学」(講談社ブルーバックス)
著者は執筆当時浜松医科大学教授。副題は「心と体の不思議な関係」。病気の進行や痛みが精神的なありようで改善されることがあると云うことはよく言われることである。そういう事実が実際にあるのではないかという視点から多くの事例を挙げて科学的にその真偽をただしていく。 私もリューマチの激痛がお笑い番組を楽しむことで軽減したという実話を聞いている。精神は体にどれだけ影響力を持つものだろうか。もちろん身体の状態は測定値に基づくと云っても身体そのものではない。ましてや精神や心は数値化して比較することは難しい。だから日本ではこのような研究は一笑に付されるし、論文として評価されることもほとんどない。ところが海外ではかなり真剣に研究されているし、それなりの評価もされている。何らかの統計的な報告があるとそれに反論するための検証も熱心に行われて、その研究も再現性のあるものに洗練されてきている。
私は元々気持ちの問題が身体に極めて大きな影響を与えるものと信じているので、この本に書かれた事例は素直に情報として受け止めることができる。信じるものは救われる、である。病気になれば気持ちも余裕がなくなり低調になるのは間違いない(原因と結果の問題だと決めつける医者が多いに違いない)が、なにくそ、と思う人ほど病気を撥ねのける力がある、というくだりは、そうに違いない、と確信をした。
この本の最後のところで、妻帯者と独身者、友人の多い人と少ない人、それも友人との行き来を積極的にしている人と受け身の人では有意に寿命に差があるという統計の数値を見るとそうだろう、そうだろうとうなずくことができる。おっくうに思わず、どんどん人に会うことが寿命を延ばすのだ。孤独死は孤独であることから起こるのだ。
医学的な例をたくさん挙げながら多岐にわたって身体と心について考察しており、著者自身は明確な結論を出していないが、気持ちの持ちようで場合によって病気を退けることがあることを認めていると思われる。
不治の病であっても精神の持ちようで生き方の濃度が高くなる。残された時間は同じでも結果的にそれは寿命が延びたことにつながると思うのだ。
この本は生きることに勇気を与えてくれる良書だと思う。ただし医学的にかなり詳しいので、そこのところは飛ばしながら読めばいいだろう
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