「清末見聞録(清国文明記より)」・山東紀行・陳家店
十六日午前六時半泰安府を出発した。護衛兵四名が我らを送ってくれる。二名はモーゼル銃を肩にして騎乗し、二名は大刀を負って歩く。共に花色の服を紅色の布で縁取り、背中と胸とに丸く紅色で兵勇と縫い取りしたのを着ている。行くこと十里にして護衛の歩いていた二人をねぎらい、帰ってもらう。おのおの酒銭二百文すなわち我が銅貨十銭を与えれば彼らは大喜びで請安(チンアン)の礼を施して去る。我らは見事大人になりすまし兵勇二騎を従えて行くこと四十里、十時半張夏に到って休憩した。また行くこと四十里にして汶水(ぶんすい)に到る。汶水は源を泰安府莱蕪(らいぶ)県から発し、滔々数百里流れて運河に入る。詩にいう汶水滔々とはこれだ。幅員およそ三清里、渡し船がある。昔はかつて高節の士が「我を汚すものあらば我将に汶上に在らむ」と云った遺風を偲びつつこの川を渡り、顧みれば泰山が雲のうえに聳えているのが望める。また行くこと五里、寧陽県陳家店に到着した。この日行程百余里。陳家店は一僻村で一軒の商店もなく、わずかに饅頭、卵及び豆腐を手に入れて夕食とした。従ってきた騎兵には各々酒銭三百すなわち我が銅銭十五銭を与えた。
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