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2012年7月24日 (火)

養老孟司&竹村公太郎対談「本質を見抜く力」(PHP新書)

 竹村氏は土木工学の専門家で、建設省でダム建設に関わってきた。2002年に退官している。ダムの必要性についての意見は聞くに値する。
 現代の問題を観念的な観点からではなく、具体的な「もの」から見直して論じている。エネルギーから二十世紀を見直し、アメリカ文明を論じ、二十一世紀の問題点を浮かび上がらせる。まことに二十世紀は石油の時代であった。
 そして環境問題、特に温暖化についての世界の不公平な状況を鋭く追求する。正義の味方の顔をしながら実はエゴイズムのぶつかり合いであることが明らかにされる。
 少子化についての二人の意見に私も同意する。少子化は見えない神の意志かも知れないとさえ思っている。それを何とかしようという努力よりも、それが進行したあとの事態を想定した対策を今から始めておくべきではないかという。
 そして水の問題である。世界の文明のデットエンドは水の枯渇によるものであったという視点からこれからのアメリカや中国の危機について警告する。両大国とも石油危機どころではないほど水の危機が迫っている。特に中国はすでに危機ラインを越えている上にその限られた水の汚染が止まらない。狂気とも思われる異常な数のダム建設はその焦りからかも知れない。しかし同じヒマラヤを水源とした河を持つ東南アジア諸国はその中国の川下に当たる。危機は中国以上だろう。
 食糧問題、特に日本の農業問題についての項だけ、農業経済学者の神門義久氏が加わって論じる。現在までの日本の農政がいかに農家を食い物にしてきたのか、しかも農業をほとんどせずに土地だけを抱えている農家や農地だけを継いだ跡継ぎ達が日本の宝である貴重な農地をいかにスポイルしているか、そして農協は農家を護るどころか商社として農家から利益を収奪することだけに狂奔してきたかが語られる。農家の数は激減しているのに農協の規模はまったく縮小していないことに恐ろしさを感じる。

 最後に現代文明の問題点について忌憚のない意見を交換する。それは観念的なことではなく、ごく身近なことでの違和感からも垣間見えているものなのだが、普段気が付いていない人が多い。

 政治は観念的なものである。だが観念的なものだけに終始してはそれは空論で世の中は廻っていかない。余りにも観念的な集団だった民主党の、具体的な数字を旗印にしたマニフェストにうっかり乗せられた今の日本の惨状を思う。具体的な数字は実は絵に描いた餅だった。
 だから具体的なことを掲げて具体的に行動して結果を出している第三局と云われる人たちに期待が向くのは当然だろう。

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