葉室麟著「冬姫」(集英社)
冬姫は織田信長の娘。織田信長にはたくさんの子供がいるが、冬姫はその中ではかわいがられた方であった。冬姫は母を知らずに育っている。形見に水晶の数珠が残されており、いつも冬姫はその数珠を首にかけている。後に母親が意外な人だったことが分かる。
人は妄執にとらわれるとその人自身を失ってしまう。あたかもその人本来の人となりと、妄執にとらわれた人の二人が存在するようなことが起こる。これは激動の時代に生きた冬姫が、父・信長の理想を胸に、蒲生氏郷に嫁ぎ、その妄執の人に目の敵にされ、幾多の苦難に遭いながら夫氏郷や、もずと又造という忠実な付き人に護られて自分の生き方を貫いたその生涯の物語である。
最後に出逢う妄執の人は茶々・淀君である。淀君により、自分の夫を失い、さらに激しい迫害に遭うが、その時冬姫を危難から救うのは織田信長に関わった女性達であった。淀君の妄執は秀吉を侵し、秀吉の朝鮮出兵や数々の奇矯な行動につながっていく。やがてその豊臣の時代も終焉し、蒲生家もついに徳川の時代に入って滅びるが、冬姫はそれを全て見届けたあと、七十六歳の生涯を閉じたという。
容貌も心も美しい人、真摯に人と向き合う人、理想の女性が描かれている。
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