「清末見聞録(清国文明記より)」・長沙紀行・葉徳輝氏
小華兄に伴われ、葉(しょう)氏を洪家井(こうかせい)の存養書屋に訪ねた。書屋はもと曾国藩の故宅である。帳上に勲高柱石等の扁額を掲げている。主人は進士の出身で官に仕えて吏部主事であった。のち退官して野にあり、博覧多識、最も古書を愛し、その蔵書は蔵に満ちている。来客を愛し、城府を設けず(人を分け隔てしないこと)、青眼をもって(気心の知れた友人のように)新来の私を迎え、諄々として語って飽かず、私の願いに応えてその珍蔵の書籍、書画及び古銭を見せてくれた。極めて珍しいものばかりで、見ていたらキリがない。中でも『唐経生書(とうけいせいしょ)』、『阿毘達磨大毘婆娑論(あびだるまだいびばしゃろん)』など、または葛長庚の手書『道徳宝章』、宋版の『玉台新詠』などなどいずれも愛書家の垂涎しないものはない。北宋膠泥(こうでい)活字、『韋蘇州集』などは墨の色がさながら漆の如く、まことに天下の逸品である。また『元朝秘史』が六巻あり、内藤湖南氏所蔵の文廷式本は、これにもとづいたものだという。主人はその所著及び所刻各一部を私に贈ってくれた。また各一部を私に託して桂湖村、島田翰両君に寄贈された。なお、碩学の王闓運(おうがいうん)氏はこのとき長沙に不在だった。また王先謙氏は病にあるとして会うことを辞退され、ついに面接できなかったことははなはだ遺憾なことであった。
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