養老孟司著「あなたの脳にはクセがある」(中公文庫)
副題「『都市主義』の限界」。
自然と人工、田舎と都市、脳と身体、を同じ枠組みの対立概念として捕らえることで、様々な問題を養老孟司流に解釈する。解釈したから解答が必ずしも得られるわけではないが、問題点のポイントが思わぬ処にありそうなことに気がつく。
現代がリアリティを失っているように見えるのもこのような見方からすれば当然のことであって、テレビのコメンテーターのように何事も十数秒で分かりやすく切って捨てるように解釈してのけるようなことは、リアリティとは正反対の行為であろう。
バーチャルリアリティはリアルでは決して無い。現実はもっと複雑怪奇で多面的だ。
世界の解釈を脳に全てゆだねてしまった現代人が、愛を喪失してしまったように見えるのは当然なのかも知れない。
檜原綾香だったと思うが『(ひとは)抱き合えば一瞬でわかり合えるのになぜ言葉で伝えようとするの』と云う意味の歌がある(歌詞はもっとシンプルだが)。
抱き合う、と云うことは身体と身体のコミュニケーションだ。これを言葉という記号に変換しようとすると伝えられるものが伝わらなくなる、というのは養老先生流に云えば当然なのだ。
今、都市化はどんどん進み、田舎は過疎化して都市人口は今に80%とか90%になるだろう。いやもうなっているのかも知れない。あの中国ですら都市人口が50%を越えてしまった。その中で、唯一間違いの無い『自然』である子供(by養老孟司先生)がどのように都市に適応させられていくのか、リアルを知らずに育つ子供というのが今は当たり前になっている、と云うことに今更気がついて何となく恐ろしい思いがする。
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