葉室麟著『橘花抄」(新潮社)
矜恃という言葉が好きだ。そして自恃と云う言葉も好きだ。
人に胸を張れるほど矜恃も自恃も貫いてきたなどとは云わない。でもあるべき自分を見失わないよう意識してきたことだけは自信がある。そして現実の自分とのギャップを恥じながら生きてきた。
だからこの本にあるような、葉室麟の語る物語の登場人物が矜恃を貫いている姿を見ると感動に胸が震える。矜恃を貫くことは時に人の理解を得られず、今流に云えば損な生き方を生きることになる。
この物語は黒田藩のお家騒動の余波で父親を自死で失い、藩の重鎮である立花重根(しげもと)のもとに引き取られた卯乃が運命に翻弄されながらも重根とその弟、峯均(みねひら)とその家族に護られて毅然として生きていく姿を描いたものである。卯乃は視力を失うという苦難にも耐える。さらに過酷な運命が重根と峯均にものしかかる。
最後に彼らを支えたのは卯乃であった。長い長い歳月を耐え抜いたあと、卯乃に幸せは訪れるのだろうか(もちろん訪れます)。
葉室麟の本は読み始めるとやめられなくなってしまう。おかげで今朝は眠い。でももちろん読後感の満足の中にある。
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