「清末見聞録(清国文明記より)」・長沙紀行・江に浮かぶ
漢口に達した翌朝、先ず領事館に行って一抱えもある郵便や新聞を受け取り、また正金銀行に行って学生費を受けとっので乏しかった懐もようやく重くなった。たまたま日清汽船会社の沅江丸がその夜長沙に向けて出帆するというので、まだ漢陽、武昌を見ていないけれどもまず瀟湘に遊ぼう、と思い立ち、郵便新聞を携えて船に乗った。衡州府在留の宣教師のアメリカ人と同室となった。彼は、私が二ヶ月ぶりに親しい人たちの手紙に接して心からうれしい気持ちでいる様子を見て、私を祝福してくれた。
夜は暗く、両岸はただ灯火が星のようにちらちら輝くのを見るのみである。ベッドに横になり、翌朝早くに目覚めれば、船は江を遡り、まさに大金山麓を過ぎるところである。この地の東には金口がある。都統の衙門の甍が江に臨んで見えている。秋はすでに深まり、ようやく減水期に入っているけれども水量はまだ豊富で、両岸の低地は所々水没していて、濁流は滔々と天を呑むようである。ああ誰が東海の島から来た私が川を数百里も遡っているなどと思うだろうか。雄絶、杜絶、まさに大江の名に背かないというべきか。
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