池波正太郎著「白い鬼」(新潮社)
剣客商売シリーズ第五巻。巻頭が表題の「白い鬼」。女性の陰部をえぐり取るという、イギリスの切り裂きジャックのような異常性格者で、人並み外れた剣技の持ち主である金子伊太郎という男を町方と協力して追い詰め、最後は秋山小兵衛自ら、打ち倒す。闘いのシーンは迫力満点である。
「西村屋お小夜」はあるきっかけで、佐々木三冬が春に目覚める。にわかに女らしくなっていく三冬がとてもかわいい。お小夜は本来ある理由があって拐かされた娘なのだが、それから身を持ち崩し、自ら悪に染まっていく。自らが招いたものとは云え、その哀れさは沁みる。
「手裏剣お秀」。女武芸者のお秀に打ちのめされた旗本の馬鹿息子たちが、腕の立つ浪人を金で集めて襲おうとする。それを知った小兵衛たちが助力してその企てを粉砕する。この事件が縁で今後秋山親子とお秀は親交を深めるのだが、此処では初登場。おはるが、三冬よりお秀の方が好ましい、と云うラストがほほえましい。
「暗殺」。大治郎が危難に遭っている若侍を賊から助け出すのだが、残念ながら傷が重く、ダイイングメッセージを残して事切れてしまう。大治郎たちは真相を求めて走り回り、ついに大身の旗本自らが、身から出たさびをその若侍に暴かれるのを恐れて暗殺した事が明らかになる。それだけならまだしも、関係した人間を次々に闇に葬ろうとするのを知るに及んで、ついに大治郎が立つ。ところがこの旗本の殿様は槍の達人であり、大治郎は危うく命を起こす所であったが手傷を負っただけで何とか倒す事が出来る。天下の旗本を切り倒したのだが、悪いのは相手であり、大治郎のバックには三冬の父親である田沼意次がいるから大丈夫なのだ。
「三冬の縁談」三冬に縁談が持ち上がる。田沼意次もおお乗り気だ。三冬には大治郎という存在が大きくなっていた。しかし三冬は自分をめとるものは自分を打ち負かさなければならない、と公言していた。どんな相手でも打ち倒す自信があったのだ。所が小兵衛がひそかにその相手を調べると、三冬が勝てそうもないほど強い相手である事がわかる。そして大治郎も三冬の縁談を機に、自分の心を三冬が大きく占めている事を知る。その大治郎の気持ちを知った小兵衛だが、如何ともしがたい。どうしてやる事も出来ない中、その相手というのが立派な風采にもかかわらず、問題のある人間で、三冬にはふさわしくない事が明らかになってくる。ますます苦悶する大治郎と小兵衛なのだが、意外な所でこの男、ぼろを出し、三冬との立ち会いが出来なくなる。都合が良すぎる、と云えばその通りだが、世の中というのはこうしたものだと信じたい。
何時の間にか三冬と大治郎は互いを強く意識し合い、だんだんいいムードになってきた。次の巻で大発展するのだ。楽しみである。何せ次は「新妻」という巻なのだ。
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