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2012年12月 7日 (金)

池波正太郎「浮沈」(新潮社)

 剣客商売シリーズ第16弾・特別長編。

 この巻にはいつもの中一弥の挿絵がない(文庫本には挿絵がない、私は単行本で読みかえしている)。表紙も違う。何と池波正太郎自身が装幀と表紙の絵を描いている。表紙の秋山小兵衛と覚しき老武士の顔がまるで違う。池波正太郎のイメージはこうなのだろうか。これなら藤田まことでもおかしくない。もしかしたら藤田まことが配役されたのでイメージを合わせたのか。中一弥の挿絵通りなら藤田まことはあり得ない。私は中一弥の挿絵のイメージであるから、月形龍之介が明るい顔をして演じたら良いくらいに思っている(もういないけれど)。

 現在66歳の秋山小兵衛が40歳の時、頼まれて敵討ちの付き人を引き受けた。結果として相手の付き人と闘うことになったところから話は始まる。小兵の小兵衛に対して相手の山崎勘助という武士は巌のような強力の剣客であり、小兵衛も苦戦を強いられるが、敵討ちは首尾良く終わり、小兵衛も相手を倒す(この苦戦の後、小兵衛は自分の未熟さを覚ってさらに研鑽を積んだとある)。

 そして時を経て、この山崎勘助の息子、山崎勘之介との意外な出会い、そして小兵衛が助太刀した小兵衛の弟子であった滝久蔵との関わりについて物語は展開する。

 滝久蔵はめでたく親の仇を討って国元に帰った。しかし数年後には小兵衛に手紙すらよこさなくなっていた。小兵衛は滝久蔵がどのように暮らしているかおよそ想像がついていた。その滝久蔵の変わり果てた姿を小兵衛は偶然目にする。そして陰ながらその住まいや暮らしを見守る。

 小兵衛が昔世話になった金貸しの御家人がこの滝久蔵と関わり、悲劇が起こる。異様な面体で如何にも悪相なこの御家人は人に嫌われていたが、小兵衛はその質が善であることを良く承知して気に懸けていた。

 山崎勘之介、滝久蔵、そしてこの金貸しの平松多四郎とその息子、伊太郎の運命が転変する。そして理不尽なものに対して小兵衛の怒りの剣が振るわれる。今回は大治郎の出番は少ない。

 それにしても大治郎の子、小太郎が殆ど描かれていない。もっと書かれて良いはずなのだが。そう言えばエッセイなどでも池波正太郎は家族のことは殆ど書くことがない。妻女と母親についてはいささか記述があるが、子供のことは全く言及しない。書かないことに決めているのだろうか。

 平松多四郎の運命について、救いがない。ただ息子の伊太郎がそれを怨みとして残さず、乗り越える様子を描くだけである。時に運命は残酷で理不尽ある。そのことを池波正太郎は読者に突きつける。何もかもハッピーエンドという訳には行かないのだ。

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