監督ヤン・ヨンヒ、出演ヤン・ヨンヒとその家族。
ヤン・ヨンヒ監督の両親は韓国・済州島の出身で、戦前日本にやってきて大阪の鶴橋に居をかまえた。大阪の人ならよく知っているように、鶴橋というところは、朝鮮半島出身者が多く、鶴橋駅のホームに立てば焼き肉の匂いがただよい、猥雑で喧噪に満ちた街だがエネルギッシュで生命力にあふれている。
いまは多少変わったとも言うが、済州島出身者は韓国では差別されており、就職も出世もハンディがあるので日本に渡った人が多かった。あの「済州島四・三事件」という島民の大虐殺事件にはそんな背景がある。
そのために済州島出身者には北朝鮮シンパの人が多い。朝鮮総連を通しての北朝鮮への日本からの支援や寄付も済州島出身の人が多く寄与している。そしてヤン・ヨンヒの両親も日本にいながら熱烈な金日成支持者として半生を北朝鮮に捧げてきたと云っていい。
ヤン・ヨンヒには兄が三人いる。彼等は日本での差別により、進学や就職にハンディがあることを嫌い、成人前に当時地上の楽園と言われた北朝鮮に渡った。末娘のヤン・ヨンヒだけが両親と共に日本に残ったのだ。
ソナはその二番目の兄の娘、つまりヨンヒの姪である。
その兄には二人の息子を産んだ妻がいたが、病死した。そして再婚した後妻が産んだのが娘のソナである。
この映画ではそのソナを訪ねるヨンヒとその両親の姿が映される。
ソナがまだ小学校に上がる前の姿、そして後妻であるソナの母の病死、再々婚するソナの兄とその結婚式、成長するソナの姿がヨンヒ自身の手撮りの撮影によって映像化されていく。
ヨンヒ自身は両親とは意見を異にするけれど、家族は家族だ。映画の中でヨンヒの長兄がうつ病で苦しんでいることが明らかにされる。その長兄と父が無言で歩く姿がヨンヒの、そしてヨンヒの父の気持ちを伝えている(もちろん彼を北朝鮮に送り出したことへの後悔であるが、それを認めてしまえば、父は自分の生き方を否定することになってしまうし、兄も惨めになってしまうから互いに無言なのだ。・・・こんな説明はしない方が良かった。見れば分かる。申し訳ない)。
北朝鮮と日本という、行き来の困難な二つの国に別れて暮らす家族の姿を通して、北朝鮮という国がどういう国であるのか垣間見ることが出来る。しかし人はどんなところでも生きていく。そうして家族というものが生きがいでもあり、人を支えるものであることも教えてくれる。
公開は2011年だが、その前にヤン・ヨンヒの父は脳梗塞で倒れ、半身不随となって北朝鮮を訪ねることが出来なくなる。その後、ヤン・ヨンヒも自分が製作した映画が元で、北朝鮮への入国が拒否されてしまう。
だから映画の最後は、大学に入学したというソナの英文の手紙を映し出して終わる。
ソナという少女の成長を映しながら、家族とは何か、在日とは何か、北朝鮮で暮らすと云う事はどう云うことか、朝鮮総連を通しての支援とは何なのか、そんなことをあらためて考えさせてくれる映画であった。
この映画を以前録画しようとして、雷雨の影響で半分しか観ることができず、再放送を待ってじっくり見た。最初のときにはこれほど良い映画だと感じなかったけれど、見直してみてその良さを知った。見直したから良かった、というべきか。
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