映画「居酒屋兆治」1983年
監督・降旗康男、原作・山口瞳、題字・山藤章二、出演・高倉健、加藤登紀子、大原麗子、伊丹十三、細野晴臣、田中邦衛、ちあきなおみ、山谷初男、平田満、池部良、小松政夫、左とん平、佐藤慶、美里英二、大滝秀治、石野真子、小林稔侍、三谷昇、東野英治郎、あき竹城、武田鉄矢、伊佐山ひろ子。主題歌「時代おくれの酒場」作詞・作曲・加藤登紀子、歌・高倉健。
主な出演者を全て書き出したのは、それぞれに意味のある大事な役割を担っていて、映画に欠かせないからだ。さらに「兆治」の客として、原作者の山口瞳とあのイラストレーターで題字を書いている山藤章二がカメオ出演している。
山口瞳が好きで、もちろんこの原作も読んでいる。キャラクターはほぼ似ているけれど、原作の舞台が東京郊外なのに、映画は函館である。
この映画を高倉健追悼の一番最初の映画として久しぶりに見た。
忘れられない良い映画だと思っていたけれど、こんな名作だったのだ。この映画での大原麗子は文句なしに素晴らしい。列記した名前で、美里英二という名前だけ、誰だかわからない人が多いだろう。カラオケ狂いの異様なキャラクターを演じていた俳優だ。一度見たら忘れられない。大原麗子が自ら破滅していくのと対比するようにカラオケという夢想の世界に狂い込んでいく姿は鬼気迫るものがある。
映画の冒頭では普通の家庭の朝の様子がほとんど会話だけで描かれていく。女の子達二人の他愛のない会話、そしてまだ寝ている父親の様子を覗きこむ娘に母親(加藤登紀子)が「駄目よ、まだお父さんは寝かせておいてあげなさい」と声をかけ、「もう起きてるもん」と娘が答える。「あらあら、起こしちゃったの」と言って襖を開けたところに高倉健が布団から起き上がる。
そして軽快な音楽とともに高倉健が自転車で函館の街を走り抜ける姿が映し出される。港町でもある函館、煉瓦倉庫の建ち並ぶ一角にある赤提灯の居酒屋「兆治」。横手の入り口の鍵を開け、モツの煮込みの火を入れ、昨夜の片付けをして、カウンターをぞうきん掛けする高倉健の姿はまさに居酒屋の主そのものである。
およそ高倉健が主演する映画らしからぬ冒頭が映画全体のベースになる。そこに明らかに違和感のある女・大原麗子の蔭がさし、次第にドラマは進行していく。
こんなふうに説明していたら終わるまでに何十頁にもなってしまう。
とにかくもしこの映画を見ていないのなら是非じっくりと見て欲しい。全ての俳優が全て良い。小松政夫の悲しみ、押しつけがましく人を支配下におきたがる伊丹十三のいやらしさ、如何にも場末のスナックのママそのままのちあきなおみの絶品の演技。そして刑事の三谷昇の語りかける言葉。本当に愛すると言うことは相手を縛ることではないと云う事を知っている加藤登紀子、等々。全て役名でなく俳優の名で言っていてややこしくて済まない。見ればわかる。
高倉健追悼の文章にこの映画のラストシーン(本当のラストは高倉健が一人でガラスに映る自分の顔に涙を見て、何事かつぶやき(「頑張ろう」とか「頑張っていこう」とか言ったような気がする)ながら冷や酒を飲み干すところに主題歌「時代おくれの酒場」が流れ、エンドクレジットが出る)で、大原麗子の葬式で高倉健が涙をこらえて空を見上げるシーンを特に印象的であることを挙げさせてもらった。
ここでこの映画の主人公は高倉健以外ありえないことがわかるのだ。
本当に良い映画なので出来れば誰にも見てもらいたいものだ。
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