どうでも好いことですが
半村良の「妖星伝」という長編SF伝奇小説(全七巻)がある(残念ながら第五巻までしか読んでいないので結末を知らない)。この本の最初のほうに宇宙人が「地球は過剰な生物であふれている」と思うところがある。宇宙人がそう考えたのは砂漠のまん中ではなく、日本の緑あふれるところだから、木々や草花があり、獣や昆虫が動き回り、地には微生物が数え切れないほど棲息している。その地球に対しての感想が変に印象に残っている。
この世界は確かに生物であふれている。目には見えないけれど、バクテリアや細菌やウイルス(ウイルスは生物とはいえないらしいが)が私たちの身の回りにあふれていることを、ふだんあまり意識しないけれど私たちは知っている。
その中に人に害をなすものもあるが、多くは無害であり、有用であるものも少なくない。害をなすものを完全に排除しようとしてもそれは不可能である。それよりも限度を超えた排除をおこなうと、有用なものを損なうことによる弊害が起こるだろうと想像される。
TVでCMを見ていると、無臭・無菌を目的とした商品が盛んに喧伝されている。確かに不潔・不衛生が人間の健康を損ない、寿命を縮めてきた。それが大幅に改善されて今日があることを思えば、このような風潮が分からないことはない。
しかし人間も生き物である。身体の中では有機化学的な反応をおこなって生命を維持しているから老廃物は出るし臭いも発生する。また体内に微生物を共生させて消化活動をおこなっているから無菌化すればその微生物を喪ってしまう。
ここでどうでも好いことの本題である。キッチンのスポンジたわしには生ゴミ入れよりも菌が増殖している、と言うあのCMのことだ。確かにあの中空構造は雑菌が繁殖しやすいものだ。良く絞っておいたとしても一晩おけば雑菌が大量に繁殖している、と言うのは事実だろう。わあっ、気持ち悪い、殺菌力の強い洗剤を使用しよう、と考えさせるわけだ。
どうでも好いことだけれど、ここで私は少しむっとして突っこむ。ではその洗剤を使う前に、何人の人が雑菌の繁殖で病気になったというのだ!
確かに食中毒などは清潔にしていないから起こることも多い。しかしそれはキッチンのスポンジを殺菌するしないとはまず関係ないのではないか。そもそもCMではスポンジについた菌を培養して、繁殖した、と言うけれど、スポンジを使用する前に水なり湯なりで一度洗ってから使用する人が普通だろう。それでたいてい大幅に雑菌は減ってしまう。
雑菌が人間に害をなすのは、(特別な菌以外は)それが不潔・不衛生なために大量に身体に取り込まれるからだ。少量であれば身体はそれに対抗して退治するシステムを備えている。
問題は、こうした雑菌に対するシステムは無菌の状態が続くと劣化することだ。雑菌に対してひ弱な身体にしてしまうと、それこそ無菌の状態でないと生きられないことになってしまう。
世界は生物で満ちあふれている。その世界で生きて行くにはある程度の耐性が必要ではないか、などとどうでも好いことから考えた。
子供の頃、おじいちゃんおばあちゃんの寝床にもぐり込むと、おじいちゃんおばあちゃんの臭いがしたのを懐かしく思い出す。こちらもそろそろその臭いがしていることだろう。歳だもの。何が無臭だ!
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どうでも好いことではないですね。同感です。
投稿: かんちゃ | 2014年11月 4日 (火) 07時38分
虫にさわれない子供などをみていると日本人がますます生物としてひ弱になっているのを感じます。平均余命は間もなくまた短くなっていくような気がします。
投稿: OKCHAN | 2014年11月 4日 (火) 16時49分