江戸川乱歩全集
昭和44年に第一巻配本の「江戸川乱歩全集」(講談社)は、全15巻だけれど、第13巻と第14巻が「探偵小説四十年 (上・下)」、第15巻が「幻影城(正・続)」なので購入せず、手持ちは12巻まで。
真っ黒い外箱に臙脂色の布の表紙、挿絵は横尾忠則(それ以外もある)。ちょうど刊行中のときは大学生で、なけなしの金をはたいて毎月店頭に並ぶのを待ちかねて購入した。私の宝物である。
これを実家の本棚に並べてある。介護にやって来たので久しぶりに引っ張り出して、第一巻「屋根裏の散歩者」から読み直している。第一巻は初期の短編がたくさん収められている。「二銭銅貨」「一枚の切符」「D坂の殺人事件」「屋根裏の散歩者」など本格ものも多いけれど、この巻でもっとも好きなのは、きわめて短い「白昼夢」という作品だ。イメージがあまりにも強烈なので、私自身が実際に見たような気がしている。ショーウインドウに生首が飾られて、それを「自分が殺した女の生首だ」と告白する男を、居並ぶ観客がゲラゲラ笑っている様子は、あり得ないけれど、見た記憶がある。横尾忠則の挿絵が凄いけれど、今回はカメラをもってこなかったし、スキャナーもないのでお見せできない。
巻末の「闇にうごめく」だけは少し長い中編である。このすさまじい、限界を超えた異常世界(カニバリズム・開高健も究極の食として論じている)は精神的に不健全である。学生のときにこんなものを読んでいたのではちょっと危ない。
暗闇の中で飢渇にさいなまれ、さまよう、というのは「孤島の鬼」でも描かれているが、あちらはラストに救いがある。この「闇にうごめく」のラストは陰惨の極みである。
とはいえそれを放り出さずに読むのだから私は大丈夫だろうか。想像力の果ての不健全を物語で読むことでかえって健全を維持する、ということがあるのかも知れない。もし私が精神的に健全なら、だけれど。
さあ、次は明日一日、第二巻「パノラマ島奇談」を読むことにしよう。表題の「パノラマ島奇談」の世界もすさまじい。発狂の世界だ。
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