昔話
寝たきりで会話もできない母の前で、弟と突然思い出した昔の話をした。
わたしがまだ中学生になるかならないころ、母と弟と妹とで房総半島に行った。楽しい旅だった。車などはないからバスを乗り継いでの旅だった。母は出かけるのが好きで、私たち兄弟はついて行くのが大好きだった。天気は快晴で、海は青かった。バスの中で突然母が顔色を変えて「財布がない」といった。バスに乗る前にみんなでかき氷を食べたのだが、そこに忘れたらしい、というのだ。
わたしと弟は母を責める眼をしていたのだと思う。母はしょげかえっていた。幸い戻った店に財布はあった。
そのことを思い出して弟にその話をしたら、弟も良く覚えていた。母はいつものように無表情のままだったけれど、目がきらっとしたように見えた。
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