幽霊の顔(幽明録から)
あるとき阮徳如が便所で幽霊に出あった。身のたけは一丈あまり、色は黒くぎょろりとした目で、黒いかたびらに武官の頭巾をつけ、すぐ目の前に立っていた。しかし徳如は落ちつきはらって、やがてにやりと笑って言った。
「幽霊というやつはいやらしいものだと世間で言うが、なるほどそのとおりだ」
すると幽霊はまっ赤な顔をして退散した。
子供のとき、夜の便所は怖いところであった。昔は和式で水洗ですらないから、下に暗い便壺が見える。しかも便所の灯りは小さく暗い。なにかがひそんでいるような気がしてしまう。
ところで身のたけ一丈と云えば、十尺、いまなら約三メートルだが、当時の中国では一尺が24~25センチだから2.4メートルあまりか。それにしても見上げるような大きさだ。しかし阮徳如の入った便所には天井がなかったのだろうか。いくら高い天井でも幽霊の頭はつかえてしまうから屈んでいたのだろうか。狭いところに大きな幽霊はそぐわない。
物語と関係ないけれど、便所の灯りが暗いと云うことから、「便所の百ワット」という言葉を思い出した。無意味に明るい、という意味で、某ジャイアンツ出身のタレントたちのことを思い出した。いまはLEDの時代、20ワットでも明るすぎて幽霊は出るに出られないだろう。
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