ムウェテ・ムルアカ「中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う」(講談社+α文庫)
著者のムルアカ氏は現コンゴ民主共和国(旧ザイール)出身で、あの鈴木宗男代議士の秘書をしていた巨漢といえば思い出す人も多いだろう。現在は国際政治評論家として活躍し、千葉科学大学や神奈川工科大学の教授でもある。2005年、日本に帰化。
1993年に設立され、五年に一度開かれる「アフリカ開発会議」の設立のメンバーである。2013年の横浜で開かれたこの会議に、アフリカ54カ国のうち51カ国が参加したことは、当時大きく話題になった。
中国がアフリカの資源を狙い、かつ中国人をアフリカに大量に移民させようとしていることは周知のことである。巨額の援助をえさに独裁政権などの有力者に金をばらまき、中国はいまもっともアフリカに浸透している国家である。この手法がまさに欧米の植民地主義に酷似しているために、アフリカでも欧米でも「新植民地主義」と言われていることを日本のメディアはあまり伝えようとしないのは不思議なことである。
中国が各国のインフラ整備に積極的に乗り出すことを、当初アフリカ諸国は歓迎していた。ところがそのインフラ整備には現地人はほとんど採用されず、ほとんど中国人労働者が送り込まれ、それがそのまま現地に居座っていること、そして行われた工事が劣悪で、大きな問題が起きていることをご存じの人も多いだろう。
そのために現地での反発も大きく、中国人が襲われる事件も頻発している。この本ではその中国のインフラ工事のずさんさが、これでもか、というほど書き連ねられているが、話半分にしてもひどいものだ。
このように中国がアフリカで圧倒的に精力を伸ばしながら反発されている現在、いま日本がアフリカ進出を本気で進めるべきときである、というのが著者の主張なのだ。
ただ、著者が心配しているのは、日本のマスコミがアフリカについて治安の悪さばかりを強調し、それでなくとも海外雄飛の覇気を失いつつある日本の若者の意欲を、さらにアフリカに向けなくしていることを慨嘆している。
リスクがなければ得るものも少ない。確かにいまが最高の時期かもしれないが、正直、今以上にさらに中国に対するアフリカ各地での反発が大きくなってからの方が、もっと楽に展開できるような気もする。そのときには中国も打ち出の小槌のようなふところも不如意になり出しているし、日本は少し経済的にゆとりも出るし、中国の代わりにインドやアフリカに進出することが絶対に必要になってくることだろう。
アフリカが中国をどう見ているのか、そして日本をどう見ているのか、以前から興味があったので、この本でよく分かった。しかしムルアカ氏は日本贔屓過ぎるので、そこはある程度割り引く必要があるだろう。こういうときはあの鈴木宗男氏のような強引な政治家が必要な力を発揮できるのだが、いまの外務官僚では無理だろう。
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外交官は国益を第一に考えなければならないのに日本の外交官は、友好親善が最優先のようです。ギリギリのところで国益を守らなければという気概がないようです。
世界遺産登録でも年末の日韓合意でも、なにが大事かの思考が停止しているようです。
投稿: けんこう館 | 2016年1月14日 (木) 09時26分
健康館様
友好親善が最優先なら、まだ救いがありますが、省益第一、保身第一だという話をよくききます。
事なかれ主義のその場しのぎによって、どれほど日本が損をしているのか、外務省解体論があるらしいですが、一から見直した方が良いのかもしれません。
ただ、この本にもありますが、保身に走らず、真剣に仕事をしている外交官も少なからずいるというのですが、彼らは当然のことですが、上司の覚えが悪いということです。
投稿: OKCHAN | 2016年1月14日 (木) 16時29分