アーナルデュル・イングリダソン「緑衣の女」(東京創元社)
傑作である。読み終わって、気がついたら涙が出ていた。
著者はアイスランドのミステリー作家。この物語は彼のエーレンデュル捜査官シリーズの一つ。邦訳は「湿地」に続いての二作目で、「湿地」については先般ここで紹介した。
この本のテーマはいくつかあるが、事件にかかわる最大のテーマはDV(ドメスティックバイオレンス)である。この物語に描かれているDVのシーンは、訳者の柳沢由実子氏もあまりのすさまじさに絶句した、こんなものを訳していいか迷ったほどだ、というほどだ。
アイスランド・レイキャビク郊外の住宅地で、古い人骨の一部が発見される。数十年前の人骨なのだが、誰のものなのか、そして事件にかかわるものなのか皆目分からない。それをあきらかにするためにエーレンデュルは捜査を開始するが、同僚のエリンボルクやシグルデュル=オーリはそんな昔の事件に熱心になれない。
捜査に並行して、エーレンデュルの娘のエヴァ=リンドの物語とエーレンデュルの過去、そして事件に関係があるらしい過去のDVに遭っている家族の物語が語られていく。
救いのほとんどないようなそれぞれの話の中に、人間の業の恐ろしさ、哀しみが満ちあふれ、その中のかすかな曙光のようなものを感じたとき、読者は思わず胸が熱くなるだろう。特に私はある意味でエーレンデュルに感情移入する事情を抱えているので、その思いが強いかもしれない。ただし、わたしの息子も娘もわたしとは仲がいいのでその点は彼よりしあわせであるが。
実はこの作家の「声」という出版されたばかりの本を店頭でみつけて購入したら、すでに「湿地」「緑衣の女」の二作が訳されていると知った。そうなると、そちらをさきに読みたくなるではないか。「湿地」は創元社の推理文庫になっているのですぐ見つかったけれど、この「緑衣の人」は何軒か本屋を歩いてようやくみつけた。
これで心置きなく「声」を読めるのだが、今回の旅に持って出るのを忘れていた。帰ったら真っ先に読もう。
北関東、群馬県の老神温泉にいる。赤城の山を挟んで桐生の北側だ。定宿のバイキング式のホテル。飲み放題食べ放題。ただ、食べものも酒もあまりおいしいとはいえない。安いから我慢する。湯が二カ所あるのだが、片方の湯のパイプが不調で、修理中のため、一カ所だけしか入れないのが残念。
気がついたらブログのアクセス数の累計が20万を超えていた。今晩はささやかに一人で祝うことにする。四年半かかった。みていただいている方々にまず感謝しなければいけない。
ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
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本のご紹介があるたびに私ももう少し読書力があったらとつくづく思います。
ご紹介の本はいちいち魅力的ですね。
時々わが地方周辺に来られるので、一層親しみを感じます^^
アクセス累計20万越えおめでとうございます。
投稿: おキヨ | 2016年1月15日 (金) 11時18分
おキヨ様
ありがとうございます。
北関東、特に両毛地区は10年以上仕事で走り回った地区です。
そのときには熊谷に住んでいました。
だからわたしのいくつかあるふるさとの一つで、たいへん居心地がよろしいです。
投稿: OKCHAN | 2016年1月15日 (金) 11時32分
こんにちは。
アクセス数累計20万とは凄いですね。
おめでとうございます。
ご本を沢山読まれていらっしゃるので感服いたしております。
解説を拝見させていただき、あ~面白そうだな?スリルがありそうだな?
と思いつつも読まない私です!
投稿: マコママ | 2016年1月15日 (金) 13時36分
マコママ様
ありがとうございます。
本が集中して読めるときと、すぐ飽きてしまうときがあります。
いまは久しぶりに集中力が持続していていくらでも読める気がします。
そういうときは厚い本を読みます。
投稿: OKCHAN | 2016年1月15日 (金) 14時41分