葉室麟「はだれ雪」(角川書店)
直接ではないが、「忠臣蔵」のサイドストーリーの形で、武士とは何か、男とは何かをとことん考えさせてくれる時代小説。
二千五百石の旗本でありながら、浅野内匠頭の切腹の直前に、勝手に彼の最後のことばをひそかに聞いた男として幕府から罪を問われ、扇野藩に流罪幽閉となった永井勘解由と、その接待役を藩から命じられた寡婦の紗英の愛の物語である。
それを縦軸にして忠臣蔵の人々がかかわっていく。当然浅野内匠頭がなぜ吉良上野介に殿中で切りつけたのか、その真相もかかわってくるのだが、それが明かされるかどうかは本を読まれたい。
幕府の、特にときの権力者であった柳沢吉保が、どのようにこの殿中の刃傷と赤穂浪士の事件を処理したのか、そのときの世相がどうであったのか、どうして討ち入りが成功したのか、それが幽閉された勘解由のわずかな社会とのかかわりから見えてくる。
そして討ち入り成功により、勘解由と紗英に絶体絶命の危難が降りかかる。それをどうしのぐのか、運命に翻弄される二人はどうなるのか、それが最後のクライマックスである。
こんな人間関係は理想だけれど、だから自分がいい加減でいいというわけではない。理想をめざしたいではないか。
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