大沢在昌「魔女の封印」(文藝春秋)
特殊能力を持つ人間というのが存在するという話がある。しかしその能力を持つことを人が恐れるのならば、その持ち主はそれを隠すだろう。
「魔女」シリーズの第三弾。やくざや警察、公安などが入り乱れて戦い、だまし合い、その中で生きぬいてきた一匹狼である美女、「水原」はすさまじい過去を持つ。
その話は前二作を読んでもらうとして、今回はいささかSF的な(超能力の話だからまさにSFなのだが)物語となっている。彼女もやはり特殊な能力を持つのだが、それは人の外見からその人物の本質を見抜くというもので、その観察力が彼女の特別な生き様によって鍛え上げられたものであり、超能力というものではない。
その彼女が元警視庁公安で今は国家安全保障局にいるという湯浅から、ある人物を鑑定するよう依頼される。興味を持った彼女は堂上というその初老の男性に会うのだが、不思議なことに全くその男のことが読めない。今までになかったことである。
堂上について湯浅はほとんど情報をくれなかったのだが、独自に調査していくうちにその堂上のまわりで不思議なことが起きていることが判明する。その一億人に一人という能力を持つ堂上に惹かれてかかわるうちに「水原」はどんどん危険な世界にはまり込んでいく。
最後は中国の公安も絡み、絶体絶命の危機にたびたび陥ることになるのだが・・・。
572ページという長編で、読みでがあった。一応説明はあるけれど、前作を読んでいないと彼女の性格や能力について分かりにくいかもしれない。「魔女の笑窪」、「魔女の盟約」という前作を読んでからの方が感情移入しやすいかもしれない。どちらもすさまじい話で、だから面白い。
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