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2016年1月19日 (火)

アーナルデュル・イングリダソン「声」(東京創元社)

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 「湿地」「緑衣の女」に続いて、刑事エーレンデュルシリーズの第三作の「声」を読了した。北欧ミステリーの重厚な読み心地を満喫した。

 著者のアーナルデュルは、なぞ解きよりは被害者や容疑者たちの過去の描写に重点を置いているので、話の進展は重々しく、ゆっくりしている。直接事件に関係のないことでも丁寧に描くので、気の短い人には向いていないかもしれない。とはいえ、かくいう私も気が短い。それなのにじっくりと彼の小説が読めるのは、そこにリアルな人間が読み取れるからだろう。

 舞台となるのはアイスランドの首都レイキャビク。アイスランドは北海道よりひとまわり大きな国土に、三十数万人の人口という小さな国だ。そして人口あたりの殺人事件の数は他の国にくらべてずっと少ない。

 だからアイスランドのミステリーというのはほとんどなく、いままでは翻訳されたイギリスのミステリーが読まれてきたそうだ。しかし著者の出現により、アイスランドミステリーは世界的に名を知られることになった。

 クリスマスを間近に控えて混雑するレイキャビクの著名ホテルの地下室で、サンタクロースの衣装を着けた男が刺殺体で発見される。ホテルのドアマンだというその男について、ホテルの従業員やマネージャーに事情聴取を行うのだが、その男のことはみなが無関心で、どんな男だったのか皆目分からない。

 そんな中、エーレンデュルは、ホテルの宿泊客のひとりから被害者の意外な過去を知ることになる。その男の栄光と転落の歴史をたどるうちに、次第に事件の背景らしきものが明らかになっていく。

 親が子供のために良かれと思ってしていることが、実は子供を支配することであることがしばしばある。そのことが子供にどのような影を落としていくのか。また、子供の時のトラウマが、その人間の人生にどのように重くのしかかり続けるのか。そしてその呪縛にとらわれることも、それから抜け出すこともそれぞれの人生である。

 アーナルデュル・インドリダソンの小説は、ミステリーでありながら、というより、ミステリーであるから、被害者や加害者、容疑者の人生をとことん暴き出してしまう。

 それが北欧テイストの情景描写とマッチして、心にしみるのだ。次回作が訳されたら、また絶対読むぞ。

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