山東民話集から、「狼」
朝からこんな残酷な話で申し訳ない。
むかし、平度(ピントー)県のあたりにこんな話が伝わっていた。
ある山あいに一人のじいさんが住んでいた。その頃は人家も少なく、あっちに一軒、こっちに一軒といった具合で、今のような村はまだなかった。
狼ばかりはやたらに多かったが、じいさんの家ではみな死んでしまい、じいさんのほかにはだれもいなかった。
それなのに、じいさんのところはひどくにぎやかであった。犬、羊、猫、兎を一匹ずつ、それに鶏とアヒルを二羽ずつ、これをじいさんが飼っていたからだ。
餌を奪い合うときになると、鶏が鳴き、犬が吠え、羊がメーメーというわけで、その騒ぎは遠くの方まで聞こえるのであった。
或日のこと、じいさんは山へたきぎを取りに行って、岩の割れ目に落ちていた小さな狼をひきずり出し、そのまま家へ連れて帰った。
「生き物をあやめると、とがめがある」と信じているじいさんは、狼を縄でつなぎ、首に小さな鈴をつけてやった。そして朝から晩まで、
「青や、青や」
と呼んで、とてもかわいがった。毎日、餌を食べさせてやり、ときには市場の帰りに肉を一切れ手に入れて与えたりもした。
そうこうしているうちに、狼は次第に大きくなり、牙も伸びはじめてきた。
あるとき、じいさんが、いつものように市場の帰りに肉を手に入れて、食べさせてやった。すると、狼は、その肉を食っただけでは足りなくて、がぶりとじいさんの手に噛みつき、血を流させてしまった。
「わしは、おまえの身体を育てはしたが、おまえの心を育ててやれなかった。おまえを話してやるから、これからは自分で食い物を探すんだ」
じいさんは、そう言い聞かせると、さっそく狼を放してやった。
その二日後に、じいさんはまた市場へ行って、帰るのが夜になった。
家まではまだ三町ほどもあるあたりで、鈴の音がするのを聞いた。川縁から一匹の狼が躍り出たので、はっとして見ると、それはじいさんが飼っていた狼であった。
「青じゃないか」
じいさんはそう叫んだが、狼はそのじいさんの体めがけて飛びかかった。だいぶ年のいったじいさんには、それを防ぎ止めるだけの力はなかった。
狼は二度三度と飛びかかって、じいさんを押し倒した。そして爪でその腹をかき裂き、肝とはらわたを食ってしまった。
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恩を仇で返す、まるで韓国のようです。
でも、もともと助けてはいけない相手で、縄でつないだのもいけなかったかもしれません。
投稿: けんこう館 | 2016年1月21日 (木) 09時24分
こんにちは。
いつもありがとうございます。
あ~やはり狼はケダモノのですね。
助ける相手を間違えてはいけない事を教えているお話でしょうか?
投稿: マコママ | 2016年1月21日 (木) 11時51分
民話には意外と血なまぐさい話が多いのですが、淡々としていておどろおどろしくはないですね。
おじいさんが狼に食べられてしまった!・・・
我が家の爺さんは長いこと餌をやってかわいがっていた猫に噛まれ病院通いをしました。猫でよかったです。
投稿: おキヨ | 2016年1月21日 (木) 12時30分
けんこう館様
私もちょっと韓国みたいだな、と思いました。
狼には恩義を感じる、というこころの働きがもともとないのでしょう。
みんな生き物だから仲良く出来る、というのは人間のおごりかもしれません。
投稿: OKCHAN | 2016年1月21日 (木) 14時01分
マコママ様
犬は狼が進化したもの、といわれますが、多分本質的に違うと思います。
狼を甘く見てはいけない、人間の皮を被った狼ももちろんです。
投稿: OKCHAN | 2016年1月21日 (木) 14時06分
おキヨ様
猫は猫の気持ちで行動します。
多分虫の居所が悪かったのでしょう。
確かに民話や童話には残酷なものがけっこうあります。
それを今はソフィスティケートして子どもに教えているようですが、それだけ子どもが現実を知る機会を奪っている気がします。
現実はけっこう残酷です。
投稿: OKCHAN | 2016年1月21日 (木) 14時10分