荻昌弘「会食会談-味のふるさと-」(旺文社文庫)
旺文社文庫は残念ながらすでに1987年に廃刊になっている。旺文社文庫にしか収録されていないものも多い。私は内田百閒の随筆集を旺文社文庫で揃えている。五十冊くらいある。これは旧仮名遣いのまま。後に福武書店、現ベネッセで現代仮名遣いの内田百閒全集が出ている。実は福武書店のものも持っているのだけれど、こちらは欠巻がある。
この「快食会談」の著者である荻昌弘は映画評論家が本業だが、食通で食に詳しく、また名エッセイも残している。すでに1988年に物故。この本は食のテーマ別に、12人の論客たちと題名どおり快食し、会談した対談集である。多くがすでに物故しているのは、食に詳しい人ほど短命であるためだろうか。
テーマは、雑煮、ホルモン焼き、おでん、鯛、コロッケ、すし、カレー、そば、どんぶり、石狩鍋、おふくろの味、すきやき。それを論じながら荻昌弘が亭主としてその食を供し、その地方別の違い、料理の成り立ちと変遷などの蘊蓄を披露し、話は日本人、そして日本の文化にまで及ぶ。
楠本謙吉、開高健、安岡章太郎、末広恭雄、辻静雄、邱永漢、飯沢匡、田辺聖子、池波正太郎等々が相手なのであるから、そのレベルの高さ、話の広がりの広さ、そしておもしろさが想像できるであろう。たとえば開高健とのホルモン焼きの話は、とうぜん「日本アパッチ族」のイメージがあるから、こちらもよだれが湧いてくるではないか。
(舌代)として、それぞれの話の始めに「亭主敬白」と称する前書きがあるのだが、それが一行49文字、その細字であること、眼が衰え始めた当方にはまことにつらい。また、蘊蓄などの注釈も詳しく入れられているが、それもそれと同じ細字。若いときは何とも思わなかったのだから年を取るのは哀しいものだ。
ほとんどレシピに近く詳しい料理法も書かれているので、例しにその通り作ってみたくなる。
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