西丸震哉「食物の生態誌」(中公文庫)
著者は食生態学者にして冒険家。兄は西丸四方、島崎敏樹(ともに精神病理学者)、彼らの母方の大叔父は島崎藤村である。1923年(大正12年)生まれ、関東大震災の年の九月生まれなので震哉と名付けられた。
この人の本は、書きたいことを書きたいように書いたものでありながら、読んでいてとても楽しい。血筋からくる文才があると共に、書き添えられているヘタウマのイラスト(本人が書いている)も味わいがある。
生物としての人間が、文明の発展と共に生命力を失っていくことを憂いながら、それに順応していく人間と、それについて行けない人間のそれぞれの立場から世の中を見直す。
人間が増えすぎて食糧が足らなくなる、と警鐘を鳴らし、ユーモラスな書きぶりなのに、未来についてはきわめてペシミスティックである。これが書かれたのが四十年近く前だから、ご託宣どおりだと、世界はかなり絶望的なことになっているはずだが、さいわいまだ世界はなんとか回っているようだ。
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