アメリカ国民の不満
いまのアメリカ大統領候補選びの様相を見ていると、アメリカの良識はどうなってしまったのか、と首をかしげている人が多いだろうと思う。これはアメリカ国民の政治不信に発しているのだ、という専門家の解析は間違いないのだろう。だから職業政治家とエスタブリッシュ出身者は苦戦を強いられている。
日本とおなじように、アメリカの中流階級の多くが、自分たちが中流ではなくて下流になってしまったと感じている。政治が悪いから自分たちが貧しくなってしまった、と思っているようだ。
人間は、一番良かった時を基準に自分の豊かさをはかるらしい。だからいまその豊かさが損なわれている、それは誰かのせいだ、と考えるのだ。
トランプ氏の人気は、豊かさを損なった犯人だ、と次々になにかをやり玉に挙げて非難することが、不満を持つアメリカ国民の心に響くからだろう。職業政治家、エスタブリッシュ、ウオール街の投資家たち、アメリカの難民たち、ついには日本、ドイツ、中国、韓国まで名指しで非難されている。彼らこそがアメリカの豊かさを奪った犯人だ、と声高に叫ぶと拍手喝采である。
不思議なのは政治家やエスタブリッシュや投資家を非難するのに、大金持ちのトランプ氏は別だと考えることだ。トランプ氏は高卒で苦労して金持ちになったのであって、アメリカンドリームの体現者である、というとらえ方なのだそうだ。アメリカは成金に優しい国らしい。アメリカナイズした日本の成金を日本人の多くが嫌うけれど(私だけか?)、アメリカンドリームをドリームするアメリカ人は違うみたいだ。
しかし誰がアメリカ大統領になろうが、アメリカ人の夢見る過去の豊かさが再び戻ることはあり得ない。
世界経済が不安定で、世界がその立て直しに躍起になっているなかで、アメリカだけは右肩上がりの好調な経済を持続し、経済のバロメーターの失業率も近年最低の水準となっている。これはシェールガスや、シェールオイル、軍事費の削減などが大きく寄与しているのだろう。
だから国全体としては、大国としては唯一豊かな国であるのに、貧しいと感じている国民が多いのは、他国との比較ではなく、ただひとえに過去の豊かさとの比較の故である。
日本や中国や韓国の国民が豊かになってきているのは、アメリカの富を奪っているからだ、というのがトランプ氏の論理である。難民も奪っている、政治家も奪っている、と叫ぶ。そうだ、そうだ、と国民はうなずく。そうだったのか、と納得する。
そもそも世界の富はアメリカに集中的に集まり、世界中の貧しい国民が働いて得たものを、アメリカがその多くを享受してきた。だからアメリカ人は、世界でダントツに豊かな生活を謳歌してきた。そういうシステムをアメリカは巧妙に構築してきた。しかし、世界中が努力して、アメリカとの不公平なハンディを乗り越えて、少しずつ貧しさから脱却してきた。
世界の人々が貧しさから脱却すれば、少しずつ豊かになっていく。結果的に、アメリカに偏在していた富が世界に拡散する。アメリカ人だけが豊か、というわけには行かなくなるのはとうぜんではないか。
トランプ氏はそれを過去のアメリカ、強いアメリカに戻す、と公言している。つまり世界を豊かさから引きずり落としてやる、といっているのだ。だから世界中はあきれ果て、不快に感じている。
アメリカだけが得をする世界の復活を夢見るとき、その時代錯誤の故にアメリカは没落に向かう道を選びつつあると思える。それに世界が巻き込まれて、世界の混迷に拍車をかけることになりかねないから、アメリカ選挙の行方は他人事ではない。
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アメリカの良識はどうなってしまったのか?!!!。
トランプ氏が優勢と報道されるたびに我が家は不安になってきた。
大統領に成れたとしても、トランプ氏の思うようには事が運ばない・・・と思っているが。
政治不信から今回の状況が生まれたと言えるけれど、
大統領選の結果で、アメリカが良識ある国であった・・・と思いたい。
投稿: マーチャン | 2016年2月28日 (日) 12時59分
マーチャン様
リーダーは、組織に目指すべき方向を提示して、夢を語らなければなりません。
トランプ氏には、アメリカに対して自分がどんなことで貢献するのか、という世界観がなくて、ただ誰かを非難することで喝采を浴びています。
いっていることが二転三転、無節操きわまりないのですが、それを喜ぶのがアメリカという国だとすると、こわいことです。
アメリカの「反知性主義」というのがあって、キリスト教の伝道師にはトランプ氏のような人が数多くいたし、いまも沢山います。
投稿: OKCHAN | 2016年2月28日 (日) 14時05分