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2016年2月20日 (土)

平岩弓枝「私家本 椿説弓張月」(新潮社)

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 一昨年の秋に新刊として店頭で見かけたが、買いそびれていた。今回みつけてためらわず購入。

 椿説は「ちんせつ」が正しい読みらしい(私は「ちんぜい」と読みなしていた。理由は後で述べる)。これは源八郎為朝の話である。為朝は源義朝(頼朝や義経の父)の弟である。つまり頼朝の叔父さんだ。強弓を引く豪傑として知られている。この英雄談は、あの「南総里見八犬伝」を書いた滝沢馬琴によって、「椿説弓張月」という物語に仕立てられている。

 英雄でありながら不遇に終わった生涯だったが、物語では生きのびて琉球で大活躍することになっている。

 滝沢馬琴の「椿説弓張月」を、子ども向けにした本を小学生の時に読んで、為朝の活躍に胸を躍らせた。実に痛快な本だったが、そこには「ちんぜい」とルビが振られていた。源八郎為朝は一時九州に落ちのびて、わずか三年で九州北部を制圧、そのために鎮西八郎と称された。だからそれを掛けて「ちんぜい」と読みなす場合もあるのだ。

 前半は保元の乱から平治の乱にかけての時代。その中で時代の波に翻弄されながら義に生き、そのためにつねに損な役回りを引き受け続ける。史実ではそのまま死ぬのだが、人々はそのような英雄を生き延びさせるものだ。

 後半は一転して舞台は琉球へ。琉球王朝が暗愚な国王のために侫逆な臣や妖婦の暗躍するところとなり、そこへ妖人まで現れて、義臣は陥れられ美姫は無惨にも命を落とす。その怪を晴らすのはもちろん八郎為朝であり、その子の舜天丸である。

 彼らはいままでかかわってきた、不遇に死んだ人たちの魂に守護されながら、琉球の暗雲を払い、後に舜天丸は琉球の中山王となる。

 後半は怪異に満ちた波瀾万丈の物語であり、実に楽しい。南総里見八犬伝の怪異的な話の作者である滝沢馬琴の原作のおもしろさそのものである。映像にしたらさぞ楽しめる映画となるだろう。

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