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2016年4月 9日 (土)

安岡章太郎「歴史への感情旅行」(新潮文庫)

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 本物のプロの作家の奥行きの深さを思い知らされた。

 安岡章太郎は好きな作家である。好きだといいながら、岩波から出ている全集(全十巻)を六巻まで揃えて、残りはそのままになっている。その六巻も半分くらいしか読んでいない。全集は小説だけであり、小説でないエッセーなどの方がたくさん読んでいるかも知れない。

 この本で取り上げられている「歴史」は、史実に近いものもあるけれど、もっと血の通った、その血の温もりを感じるような「歴史」である。だから自分に関係のある人たちの、人生そのものが語られている文章も数多くある。師事していた井伏鱒二については繰り返しいろいろな思い出が語られていて、それだけで井伏鱒二が一人の人物として浮かび上がってくる。井伏鱒二を読み直さなければと思う。友人であり、盟友でもあった、いまは亡き吉行淳之介や遠藤周作について語ることばにも、その哀切な思いがにじみ出ていて、胸を打たれる。遠藤周作を読み直さなければと思う。

 ここに収められた文章や書評は、一つ一つに重みと篤い感情が込められていて、一つ一つについて自分(安岡章太郎ではなく私)が感じたことを、それぞれに掘り下げて語りたくなるけれど、それではこれからこの本を読む人の楽しみを奪うことになり、お節介が過ぎるだろう。

 安岡章太郎のルーツである高知の安岡家と、幕末の土佐の歴史について、ここにも断片的に書かれている。これらをまとめたものが「流離譚」という長編小説として結実していて、いつか読みたいと思いながらそのままである。土佐の自由民権運動と言えば板垣退助だが、その運動の顛末も一部この本(「歴史への感情旅行」)に言及されている。それは史実というより、口伝として残るような血の通った「歴史」である。そのことは、私が草莽についてこのごろ思うこと(長谷川伸の「相楽総三とその同志たち」の草莽の志士たちや、先日訪ねた最上郡の清川村の清河八郎たちの話など)に通じていてとてもよく分かる。安岡章太郎も、草莽、にこだわっている。

 いったい私は今まで何を読んできたのだろう。人生をどれほどムダにしたのだろう、と慚愧に堪えない。とはいえ物理的な時間には限度がある。それなのにあれもこれも読みたい、読まねばならぬ、と思わされた。少し馬力をかけなくてはいけないようだ。

 読書をたのしむのはこれからだ! 

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