« 中国の変化の兆し | トップページ | 話を聴かない »

2016年4月10日 (日)

河野友美「食味往来 食べものの道」(中公文庫)

Dsc_8064

 往来とは人の行き来のことでありその道のことで、食味往来とは、食材の往来よりも、特に味の往来にこの本が着目していることを示している。

 過去の味は、形で残らない。だから現在残っている味から類推するしかない。それをたどることで味がどのように伝わったのか、それを見ていく。その伝わった道は、ある一つの道であることもあるし、いくつかの分岐をしていたり、もともと別の道のこともある。

 基本的に日本国内に限定された考察であるが、それでも多岐にわたっているから、それぞれの調査追求は浅いのは仕方がない。ややあっさりしすぎているかも知れない。それでもある地方の味の分布のまだらさはとても興味深いのではないか。

 地図上ではいくら近くても、峠があって昔は越えがたかった場所が、トンネルで簡単に行き来出来るようになっていたりすると、その断絶が見えにくくなっている。ところがそこに食べものの歴然とした違いがあることで、過去が見える。また海を通路とすると、はるか離れたところが共通の味を持っていることもしばしばある。しかし現在の陸上交通の便利さが、その違いを失わせつつあることも事実である。 

 この本が最初に出版されたのは1987年、文庫に収録されたのは1990年で、この本が書かれたときよりも、さらに地域の味の違いの消滅が進んでいることだろう。

 この本で取り上げられている食はたくさんあるが、例えば、昆布、醤油、すし、ちまき、ソバなど。食に興味のある人なら、その意味が分かるだろう。

 個別の話では、京都の芋棒と山形の芋煮(これについて語り出せば止まらなくなる)の関係についての話などはとても興味深い。また「うずみ」という料理(といわれるほどのものではないが)についての考察も面白い。私の好きな津和野で去年食べた「うずめ飯」がそのひとつであり、広島と島根周辺の食べものであって、それがどう伝統料理として残されたかが考察されている。さらに出雲ソバと出石のソバの関係、更級系との違いなど、ソバ好きには興味のあるところだろう。

 この中で、個人的には「ちまき」について思うところがあった。ちまきにはあんの入っているものとそうでないもの、細く巻いたものとおむすび状に熊笹で巻いたもの、餅状のもの(餅米をついたものだけではなく、粉から蒸したものも含む)と餅米をそのまま包んで蒸したものなど、いろいろな種類がある。

 もともとちまきは中国からの伝来であるとされており、屈原を鎮魂するための供え物が発祥と言われる(異説もある)。上海の近くの嘉興(チアシン)というところのサービスエリアで食べたちまきは、餅米の五目ご飯をおむすび状に熊笹で巻いたもので、ねっとりとねばりがあってとても美味しいものだった(蝿がものすごくて往生したが)。

 父の妹である山形県の新庄の叔母が、私が子供の頃は毎年端午の節句に合わせて、ちまきときな粉、そして私の大好きなくぢら餅などを箱一杯送ってくれた。笹にくるまれたこのちまきを蒸して、きな粉をつけて食べる。このきな粉が黄色というより緑がかっていて、とても香ばしくて美味しいのだ。蒸されたちまきはねっとりとねばりがあり、笹の香りもする。忘れられない味だ。くぢら餅については以前ブログに書いた。新庄の名物で、黒砂糖が入った甘い餅で、見た目が鯨肉に見えることからこう呼ばれる。クルミなどが入っていたりすることもある。甘いから硬くなりにくく、ちょっとあぶれば、さらに甘みが増して美味しい。ただあぶるとき、焼き網にべたべたと張り付くのに往生するけれど。

 あちこち出かけているので、ここに書かれた料理について、そうそう、とうなずくもの、そうだったかなあ、と思うもの、今度行ったら食べてみよう、土産に買ってこよう、というものがいろいろあった。旅の楽しみは食べものの楽しみであり、そこに独特の食べものは記憶を強化する。食べものに対する好奇心が多少弱ってきたことが少し哀しい。

« 中国の変化の兆し | トップページ | 話を聴かない »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

ちまき・・・懐かしい手作りの食べ物です。
私は新潟の小白倉という素朴な村の方から一時期毎年送って頂きました。
三角形に近いぽっくりした形で、黄な粉をつけて食べるものです。これは美味しかったですね。
くじら餅のほうは東北の郷に独特のものがあって、若い頃には大好きでしたが今は胃が許さなくなりました。
地方の観光向けにならない食品にはしみじみとした味わいのものがありますね。

おキヨ様
新庄では、くじら餅、という商標のところと、くぢら餅、というところがあります。
叔母が送ってくれたのは、くぢら餅で、新庄へ行くとたいてい土産に買って帰ります。
糖尿病者には食べてはいけないものですが、好きなので我慢出来ません。
思い出の地方の食べものはたくさんあって、旅の楽しみのひとつでもあります。
それに地酒もよけて通れません。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 中国の変化の兆し | トップページ | 話を聴かない »

2024年4月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

カテゴリー

  • アニメ・コミック
  • ウェブログ・ココログ関連
  • グルメ・クッキング
  • スポーツ
  • ニュース
  • パソコン・インターネット
  • 住まい・インテリア
  • 心と体
  • 携帯・デジカメ
  • 文化・芸術
  • 旅行・地域
  • 日記・コラム・つぶやき
  • 映画・テレビ
  • 書籍・雑誌
  • 経済・政治・国際
  • 芸能・アイドル
  • 趣味
  • 音楽
無料ブログはココログ
フォト

ウェブページ