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2016年4月11日 (月)

池内紀(おさむ)「悪魔の話」(講談社学術文庫)

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 著者はドイツ文学者でエッセイスト。

 日本では幽霊と妖怪、中国では鬼と妖怪、西洋ではゴーストと悪魔であろうか。それぞれ文化が違うからその分類などは大きく違う。中国の志怪小説を楽しんでいるうちに、柳田國男の妖怪話に魅せられ、今度はつい西洋の悪魔の話の本に手を出した。講談社学術文庫にはこんな本もあるから楽しい。

 日本の幽霊も、中国の鬼も、西洋のゴーストも、そもそももとは人間であるから、ここではおいておく。では西洋の悪魔とは何か。

 悪魔は神様が作ったものらしいが、そもそも神様が完璧であれば、悪魔が生まれるはずもなく、この世に悪がはびこるのもおかしなことなのであるが、完璧ではない人間には神の真意は分かりようがない。ただ、いろいろと想像するだけである。

 悪とは「欠乏、欠陥、弱さ、不均衡、過誤であり、無目的で、美しくなく、生気がなく、賢くなく、道理を欠き、不完全で、非現実的で、理由がなく、不確実で、不毛で、無力で、無秩序で、首尾一貫せず、不明確で、暗く、実質を欠き、どんな存在をも決して所有しない」と、シリアの修道士ディオニュシウウスが言ったそうだ。

 なんだか悪というのは人間そのものみたいだ。

 悪魔が悪いのは生まれつきのことではない。それがどうして悪となったのか?

 自らの自由意志を自由に用いて善でないもの、存在しないものを求めたからだ。非存在へと向かうにしたがい、善であり、存在であり、実存である神から離れ、空虚に近づく。

 そもそも悪魔はそれほど複雑な存在ではなかったようだ。それが神との関係で、その存在理由を突き詰めていくうちに、次第に高度化していき、奇怪な姿がイメージされていった。さらに魔女が創造され、魔女裁判、異端審問が大真面目に行われ、信じられないほど多数の人びとが、魔女やその手先として残虐に殺された。

 あのゲーテの「ファウスト」にはベースとなるファウスト博士が存在し、いくつかの伝説が残されている。そこに登場する悪魔メフィストフェレスに悪魔の一つの典型を見ることができる。

 映画では、悪魔が登場するものがいくつもある。嫌いではないので、ずいぶんたくさん観た。ちょっと思い出しただけでも「エンゼル・ハート」(デ・ニーロとミッキーローク)、「エクソシスト」、「オーメン」、「ローズマリーの赤ちゃん」(ミア・ファロー)、「ディアブロ」(キアヌ・リーヴスとアル・パチーノ)、「コンスタンティン」(キアヌ・リーヴス)、「エンド・オブ・デイズ」(アーノルド・シュワルツェネッガー)などが思い浮かぶ。他にもたくさん浮かんでいるが、題名がすぐに出てこない。 

 どうも私の悪魔のイメージは映画にだいぶ影響されているようだ。しかし西洋人が恐れるようには、日本人である私は怖さを感じない。そもそも西洋の神様を信じていないから、悪魔も怖いと思えない。それより日本の幽霊映画の方がずっと怖い。

 悪魔というとドイツロマン派のホフマンの書いた「悪魔の美酒」という不思議な小説が思い出される。奇々怪々な物語なのだが、大昔に図書館で借りて読んだきりで、その後手に入らないままである。どうも最近はドイツロマン派ははやりではないようだ。河出書房の世界文学全集はいくつもの種類が出ているが、その中のグリーン版という廉価版の全集に、この「悪魔の美酒」がおさめられていたはずなので、いつか古本屋で探そうと思っている。

 悪魔学、というのがあるらしく、ずいぶん大部の本も出ているが、そこまで詳しく知りたいとは思わない。この「悪魔の話」で充分西洋の悪魔について概観出来る。悪魔のことが知りたい、というより、悪魔を創造した西洋の中世とはどういう時代だったのか、その辺に興味が湧いてきたが、あまり手を広げてもきりがない。

 ところでこの本は、1991年に原本が出版され、2013年にこの文庫に収められるにあたり、「ニーチェの妹」という補遺を付け加えてある。

 ニーチェの遺稿集「権力への意志」が、ヒトラーの、そしてナチスのバイブルであったことはよく知られているが、それがどういうものでどのように編纂されたのか、本来はどういうものだったのか、意外な事実が明らかにされている。

 ここでニーチェの妹エリザベートの、ニーチェを崇拝する強い思いが、どれほど世界に災厄をもたらしたのか。

 これをもってエリザベートが魔女であった、とみなすことも出来るし、彼女こそ悪魔にそそのかされたのであって、あのホロコーストというものが悪魔の仕業であったとも考えられるのだ。悪魔は存在する、としか言いようのない事件はいまも次々に起こり続けている。それは人間の「不完全さ」の故なのか、それとも悪魔にそそのかされた結果なのか。

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