トランプ難民
大統領選挙がにぎやかなアメリカで、トランプ候補が共和党の代表候補に決まり、そのまま大統領に選ばれてしまう可能性が出て来た。日本で、他人事として見ていても心配なくらいだから、ある程度良識のあるアメリカ人の中には、ずいぶん深刻に事態を憂慮している人もいる。
日本に長期滞在しているあるアメリカ人が、トランプが大統領になったら日本に帰化したい、と言っているのをテレビで見た。全くの冗談ではないように見えた。アメリカでも、隣国のカナダに移住しようという人々が少なからずいるという。カナダ人に簡単になれるわけではないが、カナダには移住を受け入れる姿勢があるので、手順を踏めば十分可能であるらしい。
実際に、ジョージ・ブッシュの二期目のときに、カナダへの移住者が急増したことがあるという。
トランプが大統領になるような国には希望がない、と考える人の気持ちがわかるような気がする。トランプはアメリカをどういう国にしたい、と言うビジョンなどないように見える。ただただ大統領になってみたい、と思っているだけで、なってからのことなどなにも考えていないとしか見えない。
彼を支持するのはブルーカラーの人々、いまのアメリカという国に不満をつのらせている人々で、誰かのせいで自分が不幸せになっている、と心の底から思っている人々である。だからトランプが、エスタブリッシュたちが悪いと言えば喝采し、中国や日本が悪いと言えば拍手喝采する。敵を示してくれるということは、自分の不幸は自分には一切原因がないと思わせてくれて、快感なのだろう。
だから、いま不幸せではないアメリカ人たちにとって、トランプが大統領になるような国は、トランプだけではなく、国民の多くがそのような幸せな(つまり豊かな)人を否定する可能性が大いにある、と感じているのだ。そのことが直接的に危機感を感じさせるし、トランプのような思考の人々が支配する国の将来が、明るいものであるはずがないことも感じているはずだ。つまりアメリカが(一時的かも知れないが)著しく衰退してしまうかも知れない、と感じているのだろう。
香港の、特に豊かな人々が、香港の中国への返還が決まってから、移民としてイギリスや台湾などへ大挙して移動した。中国は少なくとも一国二制度を認め、香港を中国式にしない、とイギリスに、そして香港の人々に約束したけれど、それが有名無実になりつつあることは結果が示している。最初は移民した人々の杞憂である、と笑っていた人々も、いまはそれを考え直しているだろう。香港経済も中国にどんどん吸い取られて、次第に香港の資産は失われ、香港の香港らしさも消滅しつつあるのではないか。
アメリカが、トランプによってそのようにおかしなことになるかも知れない、というのは杞憂だろうか。私はあながち杞憂ではないと思う。トランプが大統領にならなくても、多くのアメリカ人の考えがそのような排他的で利己的で、内向きなものであることをトランプは明らかにしてしまった。そうなればクリントンが大統領になったとしても、そのアメリカ国民の意向を無視することばできないはずだ。
世界にとって恐ろしい時代がくるような気がする。
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おはようございます。
トランプ旋風はアメリカ人の知的水準の低さのせいだ、という意見が出回っているようですが、
もちろんそれもあるでしょう。
しかし、私見ではやはり民主主義が衆愚政治に変わる”宿命的な”変化がアメリカで起こっているのでしょう。
所詮民主制は衆愚制に変わるのが宿命ですから・・・。
では、
shinzei拝
投稿: shinzei | 2016年5月 2日 (月) 06時24分
shinzei様
shinzeiさんの持論どおりの事態の推移ですね。
アメリカはたぶんこの事態をなんとか自己修復するでしょうが、アメリカ国民の本音を反映せざるを得ないとすれば、過去のアメリカの失敗を繰り返し、ついにはアメリカ自身の没落を招く事態になるかも知れません。
それが他人事のままなら良いのですが、世界中がその影響を受けることを思うと・・・。
中国とロシアは歓迎しているでしょうけれど。
投稿: OKCHAN | 2016年5月 2日 (月) 08時49分
ちょっと(だいぶ)話変わりますが、以前テレビでアグネスチャンが、中国・韓国の歴史観は正しくて、日本がおかしいと力説してました。そんなアグネスチャンは、イギリス国籍の香港人だそうです。
中国籍の香港人とは違う安全圏にいるようです。ある意味もっとも中国人らしいかもしれません。
投稿: けんこう館 | 2016年5月 2日 (月) 09時24分
けんこう館様
知りませんでした。
アグネスチャンは「ひなげしの花」を可愛い声で歌っていたことしか覚えていません。
ひなげし、というのがポピーであることをそのとき知りました。
投稿: OKCHAN | 2016年5月 2日 (月) 14時13分