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2016年5月31日 (火)

ふれあい

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 先般読んだ、池内紀「ニッポン旅みやげ」の前に出た「ニッポン周遊記」という本を読み始めた。同時に購入したのだけれど、こちらの方が厚いのであとになってしまったが、本当はこちらから読むのが普通だろう。

 「ニッポン旅みやげ」がふらりと訊ねた街角、村はずれで見かけた心に残ったものを取り上げているのに対し、「ニッポン周遊記」はそこへ行きたくて行き、見たいものを見に行っている。

 本全体のことは読み終わってから書くとして、途中に、ちょっと好いな、と感じたところがあったので、書き留めておく。

 愛媛県の久万高原町を訊ねたレポートの締めくくりの部分。


 同じ通りを引き返してきたら、細い露地との角に石が据えてあって、太字で「今吉」と彫りこんである。その前の三階建ての建物は二階と三階に手すりがつき、手のこんだ飾りがほどこしてある。かなり荒廃しているが、どことなく艶っぽい。以前は料亭として夜ごとに賑やかな声が漏れていたにちがいない。

 飾り窓に陶磁の壺や大皿が置かれていた。古伊万里の皿のセットが目をひいた。引き戸が細めにあいている。そっとのぞくと、小さなポッテリとした頬のおばあさんが、広い土間に椅子を据えてすわっている。眼が合ったので、ゆっくり立ち上がり近づいてきた。
「いいお皿ですね」
「みなさん、そうおっしゃいます」

 つづいて「わたしには皆目わかりませんが」とつけたして、ニコニコした。童女のような顔に品があって、こよなくやさしい。「今吉」の意味をたずねると、今治からやって来た吉次さんが始めた店。
「わたしのおじいさん」

 それが祖父のことなのか、「おじいさん」と言い慣れていたつれ合いさんのことか、どちらともつかなかったが問い直さなかった。

「お達者で」

 そっと肩に手を置くと、とろけるような細い目になった。つぎの角で振り向くと、やはり石像のようにじっと戸口に佇んでいた。


 このおばあさんの人生を想像してしまうではないか。こんな文章を読むと、旅でほんの一言声を掛け合っただけだけれど、忘れられない人たちのことを思い出す。旅心がうずく。

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コメント

おはようございます
先日は私の勝手極まりない三国志談義をご笑覧いただきありがとうございます。
北方版『三国志』は買いませんでしたが(いずれ買おうと思っています)図書館から借りて
面白く読ませていただきました。
あの五虎将軍の一人馬超が実は諸葛亮の死後も生きているという設定に意外な面白さを
感じました。
北方版も日本人の『三国志』愛が作った名作ですね。
では、
shinzei拝

shinzei様
あまりに小説的で、北方版の「三国志」はお気に召さないのではないかとちょっと思いましたが、面白かった、と聞いて嬉しいです。
わたしは吉川英治の「水滸伝」を先に読んで中国の話の面白さに嵌まりました。
こちらも北方謙三版がありますね。

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