高橋陽一「中国GDPの大嘘」(講談社)
書かれている内容は、基本的に他の本で読んだことのあるものが多いけれど、この本ではそれがとても分かりやすくまとめられている。わかりやすいのは大事なことだ。
著者は中国経済の現状と今後について、かなり悲観的な見方をしているが、その根拠のひとつが標題の「中国のGDPの大嘘」なのである。中国のGDPの統計値の信頼が疑わしい、というのはしばしば言われていたことだけれど、その他の統計値との比較を易しく説明することで、矛盾を明らかにし、そこから実態を推察する。
しばしば中国経済はそれほど悲観的ではないと強弁する中国専門家がいる。例えば中国の統計値の信頼性について李克強が疑問を呈し、いわゆる克強指数といわれる指標を見る方がよい、と述べたことがある。実は克強指数は中国全体について述べた話ではなく、彼が遼寧省のトップだったときのことばで、遼寧省の実態について述べたものだ。だから李克強指数で中国経済を悲観的に見るのは間違っている、というのが彼らの反論である。
特にそのひとつの鉄道輸送量という指数は、鉄鉱石や石炭を輸送するときに顕著に変動する指数で、現在のようにトラックによる輸送が主要になっているから参考にならない、というのである。確かにそうかも知れない。しかし鉄道輸送量は対前年で10%以上減少しているのは事実である。そして少なくとも重厚長大の産業のメインの輸送手段はいまでも鉄道である。それなのにGDPの伸びが7%近い、というのが信じられるだろうか。
このようにして中国のさまざまな統計値と実態経済との乖離と思われるものが次々に取り上げられて、中国の報告する統計値に疑問を呈する。それは中国の社会主義体制の必然的な現象だと見る。
そもそも独裁体制はそのような欺瞞を生むのだ。それは東芝の粉飾決算や、三菱自動車の数値改竄などとおなじ体質ではないか。上からの至上命令に、無理なことでも「できません」といわせない体質なのだ。
著者は内閣参事官などを歴ていまは大学教授。安倍総理に経済諮問を受けることもある。
中国経済について書かれた本には詳しすぎて難しいもの、感情的で一面的すぎるように思えるものがしばしばあるが、この本はとてもわかりやすい。悲観的な見方は私の気持ちにはマッチしているが、それを違う、と考える人も、一度この本を読んでみるのがいいかも知れない。
中国経済の実態はやはり悲観的かも知れない、とわたしは思った。そう思いたいから思ったところもあるのを否定できないが。
« 「昇進拒否権」のニュースから | トップページ | 「言論の自由度が低い日本」という評価の理由 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 前回の具体例(2025.01.28)
- 激越な文章にあおられて熱くなる(2025.01.27)
- 『塩の道』備忘録(1)(2025.01.26)
- 製塩と木地師の里(2025.01.24)
- 痛快な毒舌、罵詈讒謗(ばりざんぼう)(2025.01.23)
おはようございます
私には中国人の知り合いや友人がけっこういまして、その人たちから”中国の本音”をよく聞くのですが、
楽観的な見方は殆どなく、大体は悲観的な見方なのが気になります。
ただし、中国人は結構打たれ強いところがあるので、
本当に中国が危なくなればなんらかの形でそこからエスケープするでしょう。
古くから中国人はそうしてきましたから・・・。
でも大挙して日本に来られても・・・。ですね・・・。
では、
shinzei拝
投稿: shinzei | 2016年5月 5日 (木) 09時00分
shinzei様
中国に大きな変動があれば、シリア難民とはけた違いに多くの人々が難民として各地に拡散するでしょう。
今はヨーロッパの難民問題を対岸の火事のように見ていますが、備えと覚悟が必要かも知れません。
中国人は移民しても現地でコロニーを形成して周りと融和しません。
移民希望者は少しずつ増え続けていて、確かに受け入れているのはほんの一握りなのですが、審査期間中は滞在が許され、場合によって就労も許されます。
すでにそのまま居座っている人が多数いるようです。
投稿: OKCHAN | 2016年5月 5日 (木) 10時15分