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2016年5月11日 (水)

知らないと誤解する

Dsc_8989 表紙は梅原龍三郎の絵

 用事で弟の家(親が健在のときは実家)に泊まった。一冊だけ本(岩満重孝「百魚歳時記」)を持って行ったが読了したので、実家の本棚を眺めていたら、高峰秀子の「わたしの渡世日記 上・下」を見つけた。この本、探してもないので、どこに行ったのかと思っていたが、母に読ませるためにこちらに持って来ていたのだ。

 まだ読み始めたばかりだし、上下巻とも四百ページ近いので、ぼちぼち読むつもりだ。高峰秀子を知っているある程度の年齢の人なら面白く読める本だ。彼女のエッセイは定評がある。彼女の交友相手のレベルの高さには瞠目するはずだ。そこから人間をみる眼が養われているということなのだろう。良いものをいつも見ていると目利きになると言うではないか。

 高峰秀子をほとんど知らなかったとき、私は彼女が嫌いであった。ほとんど憎むに近かった。知らないのに嫌うにはもちろん理由がある。私が中学生か高校生の頃、彼女は田辺製薬のCMに出ていた。その印象があまり良くなかったのだ。そして田辺製薬はスモン禍の問題で矢面に立つことになった。

 田辺製薬の胃腸薬に整腸成分としてキノホルムという薬剤が使用されていたが、それによってスモン病という重篤な病気を発症するのではないか、と疑われたのだ。

 当初一種の風土病である、などの説もあり、キノホルムが主原因であることがなかなか検証できなかった。田辺製薬は反論に終始し、この問題に真摯に対応しなかった。次第にキノホルムが犯人であることが分かってきたとき、実はすでに田辺製薬側がキノホルムが原因であることを、可能性として認識していたらしいことが明らかになり、悪質であるとして社会問題となり、スモン訴訟として名を残す薬害訴訟の走りとなった事件である。

 この時に私は田辺製薬の対応を注視していたから、まさにその田辺製薬の胃腸薬のコマーシャルをしていた高峰秀子を田辺製薬そのもののように憎んだのである。

 彼女にはなんの責任もないから、責められるいわれなどないことはいまなら分かるが、そのときは田辺製薬はこちらに見えないから、私にとって彼女が田辺製薬そのものに見えたのである。田辺製薬はその後三菱ウェルファーマと合併し、三菱田辺製薬と名を変えている。

 先程田辺製薬をWikipediaで見てみたら、キノホルムによるスモン病の問題が記載されていないことに驚いた。どういう人がこれを書いたかよく分かる。自分に不都合なことは書かないのだ。

 私が高峰秀子を嫌う様子を見て、母はなにか言いたそうだったが黙っていた。それからずいぶん経って、誰かの書評でこの「わたしの渡世日記」を薦めていたので、読んでみたのだ。

 内容については再読終了後にあらためて紹介するとして、文章の確かさとその素養に感心した。つまり品位があるのだ。偏見が一挙に払われた。この本を読んで高峰秀子についての気持ちが大きく変わったと母に告げたとき、母はちょっと嬉しそうだった。この本を読みたいと言うので、こちらに持って来ていたことを思いだしたのだ。

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コメント

おはようございます。
田辺製薬は弟が初めて就職した会社でもあります。
キノホルムのことも弟から詳しく聞きました。
尤も、今は外資系の抗がん剤が売り物の製薬会社にいて
札幌で勤務していますが・・・。
では、
shinzei拝

shinzei様
ある時期、日本は謝罪すると責任を全面的に追うことになるから、完全に認定されるまでは否認する、というのがあたりまえでした。
もともと日本はありがとうの代わりに済みませんと言うくらい、気軽に謝罪していたのにおかしな風潮でした。
海外の真似としては最低の物まねだった気がします。
薬害も含めて公害がなかなか解決できなかった理由かと思います。
最近、少しはマシに戻っていると思いたいですが。

田辺製薬と高峰秀子との関係を調べているうちこちらに行き当たったものです。

高峰秀子さんは、このスモン禍での田辺試薬の対応に疑問を持ち最終的にCMを

降りたそうです。

おっしゃる通り、女優としても、文筆家としても、一流のひとでした。

あなた様のお母さんの思慮深さに筆をとったしだいです。

kuruo様
コメントをありがとうございます。
高峰秀子は松山善三という最高の伴侶を得て、それまでの苦労を吹き払うことができてしあわせでした。
それは彼女自身の人生に対する向き合い方がもたらしたしあわせなのだと思います。

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